そのような大きな黒目の中に映るものは、白い光だけではない。

キーアの瞳の茶色さも、淀むこともない黒さの中ではにわかに写っている。

黒目で際立つ白い光が茶色い暖色に囲まれ、体温さえ感じる。

その茶色には虹彩の筋の栗色、その隙間の焦げ茶色、それらが集まる瞳孔の黒に近い色まで詳細に写っているので、模様が豊富である。

くっきりとしているだけでなく、大きな黒目だからそのような景色を映らせるだけの枠がある。

そのような黒目を、キーアは先程からずっと見つめている。

視線はピタリと吸い付いたまま、近くを離れない。

以前ならいざ知らず、今はその距離に息苦しくなることもなく、逆に黒目に色合いを宿らせる余裕ができ、その体温でこちらの視線も温めることができる。

蕩けそうになる先にいる白き支えが、瞬きを何回しても、砂埃が目の中に入っても、暖かく感じる。

 

秋の風が、さらにその体温を感じさせる。

胸の内にいてくれる、小さな太陽の照り返し。

その天然の暖かさを浴びて、瞳は日焼けすることもなく、白さやとりどりの茶色に包まれ温まっている。

そばに感じられる甘い香りが胸の中に満ち、体内の物質と化学反応し温もりさえ感じられる。

アステリア特有の微妙な湿り気は秋風にさえこもり、セインの中を駆け巡る温度物質と似たものをしきりに肌にも接触させてくる。

セインが着ているキトル・レア製の隊の戦闘服は、外気のそのような暖かな機微をよく伝える。

 

 

セインの、そのようなほんのりとした温度が、キーアの白い相貌や水色と灰色の中間色仕立てのyシャツ越しにも伝わってくる。

襟の上にある涼しさを漂わせるうなじにも、そのような温もりが伝わっていく。

それも風越しか、セインのそれにより暖められた血液越しか。

うなじの付近にある、首元で終わる特有の巻がかかった赤茶色の髪の毛の先に覆われた首や肩が解れていく。

それと同時に心拍が落ち着き、セインを見上げる瞼が解れていく。

程よく細長い瞳が、まどろんでいく。

そのキーアの視線を受けて、大きな瞳の枠を維持したままのセインと、そのセインの視線を受けて解けていくキーアと。

 

その図は砂埃が立ち上っても、秋風の湿り気が時折霞んでも、変わらない。

キーアの見上げるセインの瞳が、扉の方向に向き直っても、変わらない。

セインの瞳写ったキーア白さと茶色模様は変わらず、キーアの瞳に映ったセインの大きな黒い瞳、色んなものを載せた瞳の移り具合は変わらない。

キーアの茶色い瞳を覆って仕方のない黒目、キーアの茶色い瞳では再現できないくっきりとした黒さをもつ黒目。キーアの茶色い瞳では再現できない真っ直ぐな切れ長に囲まれることではっきりとした黒目勝ちの核を形成する黒目。

そこには、キーアの茶色い目では再現できない光がまばゆく映っている。

いや、元々が虹を吐くような瞳のため、白い波長からスペクトル分解された、緑、碧、桃、黄、そして青までが映っている。

それが大きな目やその縁や目尻、長いまつげにどこかしこに映っている。

取りどりの宝石に囲まれる領域を端々に持つ、生まれながらの大きな黒い瞳。

――どうしたら、こんなに綺麗な瞳ができるんだろう。

きめ細かな白肌にほんのりとしたピンクさえ浮かべ、ついつい茶色い瞳いっぱいに映るまなざしに胸を寄せてしまう。

 

そんなセインに見入るキーアの視線さえ含み、その方角に視線を寄せるセイン。

その瞳には、キーアの色とは違う、錆びた古めかしい金属系のくらずんだ色合いが浮かんでいる。

それをセインの瞳越しに再度、瞳に浮かべるキーア。

その周囲にあるアステリアの白さが、セインの瞳越しにキーアの網膜でも反射される。

キーアの白さを讃えながら、その白さで縁取られる扉の形がありありと見える。

キーアが先程、案内し、ノブを開けたドアである。

そこはもう、開かれているのである。

ちょうど二人分のスペースが、セインの瞳にも空いている。

そのスペースを讃えたまま、セインがもう一度キーアの方へ向き直る。

五百年以上経って初めて二人に開かれたドアが、まだその瞳には映っている。

その芯央に、キーアの相貌を移したまま、五百年経た解錠を大きな黒目に携えたまま。

 

「アスタレスタが呼んでる。

オレとキーアを」

そう向き直る、セインの瞳に映るもの。

引き続き、二人分の空間を残している扉と、中心にいるキーアの姿。

それを見つめるキーアの瞳にも、開かれた扉と、セインの姿が。

それを色づく絹が次第次第に細まっては景色を包めていく。

白き幻影さえ漂わせる瞼の中で、何を差し挟むこともない綾のない瞼の中で、アステリアの白さをこれ以上になく投影する瞼の中で、ゆっくりと、しなやかに。