それを瞳に収める、黒目。
影に呑まれようとも、彼女の白い姿が、その目にはくっきり映る。
大きなギョロ目をしているので、その面積も大きい。
俊敏に瞬きをした後、徐々にその瞳に映るうつむく姿を大きくしていく。
その上を縁取る瞼にある、太目の二重なラインで、瞳に映る光景を覆いながら。
重くなっていく彼女の像を、大きくしていく。
それにしても、彼の瞼は大きくなるその画像を囲うことができるほど、分厚い。
その質量は、瞳の重さにのしかかるほどだ。
それでいて、その質量を敏捷に開閉させていく。
その景色を投影する粘膜を、絶えず包みながら。
大きな瞳と瞼の質量を、近づけていく。
その瞳を後方に向けられたりもせずに、前方に湿り気を寄せさせて。
そう言えば、質量のある双眸同様、口もどっしりとしている。
周辺のすっきりとしたあごのラインに比して、目立つほどだ。
そのしっかりと結ばれた唇は、若干への字さえ形成し、あごの軽快さを圧している。
硬く閉じられた口は何も開くことなく、質量を宿したまま近づいている。
首から下の彼のつなぎの重々しさも、それに悖ることはない。
繊維の微細な隙間に泥や垢が混入している分、もとより軽くはない。
彼の軽快な顔のラインはその服装とギャップを生むが、その口や双眸の質量ゆえに、全体としての均衡は保たれている。
そのまま重くなった上半身を、うつむく少女に近づけていく。
彼の左手も歩くための振り子となり、重くなっている上体を運ぶための勢いを絶えず与えている。
さらに、平手ではなく、握り締められているコブシがその振り子の勢いを加している。
蛍光灯の光を前面に受けながら、重くなった体を弾ませて、彼女に歩み寄ろうとする。
左手のみで、その反動をつけながら。
彼女に背中を見せることなく、右手を背中に回し、左手で大手を振って彼女の方角に闊歩していく。
その間、背中に回した腕がしきりに動いているが、正面からではその手元は覗けない。
ときおり、指先のようなものが彼の左脇よりチラつくが、それもモゾモゾとうねっているようだが、彼の背筋はよれることもなく前後に伸びており、それゆえに左右にも若干張られているので、視線も遮られる。
それよりも、彼は次第に早足になっているので、裏を見ようとすれば見失ってしまう。
言えることは、ペースが性急になるにつれ、左拳は振り子の周期をはやめ、背中に寄せられている右手は、頻繁に360度方向を越え、空間角の方向に小刻みにうねっている。
それに合わせて、彼の頬に透明なラインが流れていく。
体温がその水滴の過ぎたあたりから、蒸気となって出て行く。
鼓膜には、彼が駆け出している音が聞こえてくる。
この局面になり、その音の間隔が小刻みに、大きくなっていく。
彼の足が、床を蹴り上げて、彼女に近づくペースを早める。
周囲にも、その張り詰めた音が、轟いていく。
いつの間にか、中央の大スクリーンでは事態のカウントダウンが始まっている。
それが小さくなっていくほど、彼の床を叩く足も激しくなっていく。
もはや、早く振りすぎて肉眼で捉えにくくなっている左手。
また、背中でどう引っ込められているのか依然不明な右の掌中。
それをよそに、凍り付いて動かけない白きヒロイン。
そこに全力疾走するハルキ。
その寸暇において。
ハルキが背中に置くいていた掌中を、ヒロインの肩に置こうとした矢先―――。