そうして、寝覚める赤ん坊君。

やがて、うっすらと開かれる瞳に映る、お姉さんの姿。

肩にまでかかる金髪が、赤ん坊くんのほっぺにまで垂れ下がってきて甘い。

金髪の一部が、赤ん坊君の鼻先までさすってくれて、こそばゆい。

いずれにせよ、彼を包む、太陽の陽を満面に受けた一本一本が心地いい。

光る髪が、まぶしい。

一人ぼっちの夜が、その毛筆で明るく塗り替えられていく。

絵に描いたこともないような景色が、赤ん坊君の視界に広がっていく。

お姉さんの一重じゃなくて、二重のまなざしがその中で見える。

今までにない涼やかさが、赤ん坊の瞳に写る。

 

織り込まれた裾にとりどりのスペクトルをにじませる瞼が、薄肌色の素肌に色を与える。

鮮やかな綾が、甘い香りにまで色を与える。

視界を吹き抜ける風が、瞼のすそを吹き抜けていく。

その中で、若干、眼が、大きくなる赤ん坊君。

それを見て、頬を撫でてあげる金髪のお姉さん。

その薄肌色の手のひらは、なじんでいる質感に似て、暖かい。

記憶と違うのは、髪の毛からこぼれてきたような金色の粒々で装飾されていること。

ザラザラとした質感が赤ん坊君の頬を光らせていく。

太陽の恵みを一身に受けてきたような、身から差し伸べられるそれは、少年の視界を光でにじませるには十分。

別に抱っこもされてないけど、青い空、白い砂浜をバックに見える、女神の砂金まみれの掌は、掛け値などつけられなかった。

値札など、風とともに海に舞っていく。

人に蹂躙されていない無垢な砂浜を抜け、碧い空の彼方にまで。

 

得がたい故郷のぬくもりが、返ってくる。

黄金の太陽が、それを照らすことを躊躇わない。

開かれた砂浜も海も空も、今では故郷の風景。

白に青に、碧、手でつかむには広大すぎるベッド。

もう、赤ん坊君を迷わせることもない憩い。

古き、約束された故郷が、そこに広がっていた。

開け放たれる景色の中、赤ん坊君を抱きしめてあげる少女。

まだ伸びきっていない、腕の感触がやわらかい。

直に薄肌色の果肉が、感触が甘い。

やっぱり抱っこしてくれた、お姉さんの姿。

もう離したくない光景が彼を包む。

伸びきっていない腕でも、確かに話すまいとした暖かさ。

太陽の熱さが、それをさらに暖める。

 

とろけて、広がっていく赤ん坊君の腕。

これまた、完全に伸びきっていなくても、少女とおそろいの腕。

戻ってきた力で、手一杯放したくないものを抱きしめる。

二人の体の中で、誰にも譲れないお湯が湧き出てくる。

それらが、毛穴から目端の隙間から、耳の穴から,体中の穴や隙間からこぼれ出てくる。

風が伝えるまでもなく、二人の間でその湿気が通わされていく。

血気盛んな太陽が、それを炙っては霰もない。

溶けていく二人。

 

今まで一緒だったのに、どこかで離れ離れになってしまって。

また会えるまでに、どれくらい時間がかかっただろう。

黒き空白の冷たさが、かえって、互いのぬくもりを懐かしいものにしていく。

流れる時間が、そのときだけは二人の両手で抱きとめられていく。

その中で、溢れてとめどない湯気が、互いの体を洗っていく。

しょっぱい水でヒリヒリしていた赤ん坊君の体が、甘い水で癒されていく。

石鹸水で小奇麗になっていた少女の体が、熱い水で桃色に染まっていく。

茫々な太陽が二人の間にある皮膚をとろかしていく。

互いの血液が、互いの中に流れ込んでいく。

片やA型、片やO型、片方に流れ込めば、片方は焼けるような痛みで赤く染まると言われるが、もう熱く赤い。

このままでいい。

このまま互いの血液、鼓動、体温、内臓、お湯、視線、におい、口を共有していたい。

血の繋がっていない赤ん坊とお姉さんだからできる奇跡。

このまま抱きしめて、このまま抱かせて。

 

トンビ君とサル君が徘徊する南部で目立つようになった青春。

その熱い色を、トンビ君もサル君も見逃すことができない。

トンビ君はそれを引き上げて、サルくんはそれを持ち上げて、担ぐことにした。

ますます燦燦と輝く青春。

周辺国もその果実が欲しくなったけど、二人の結束が固すぎて中に入れない。

それに、近づこうとすると、熱くて溶けちゃう。

その堅固さを南部の結束の象徴として、熱さを南部のそれとして、ますますノリノリになるトンビくんとサルくん。

その異国情緒に、近寄ることを諦めたとさ。

南部に語り継がれる伝説の二人の物語。

 

―――それを受け継いだわけじゃないけど、あのとき、浜辺で同じように抱き合ってた二人。

それを照らしていた、変わらない太陽。

その太陽は、今は蛍光灯に変わってるけど。

なぜか、あたし達、また抱き合ってる。

あたしが令覧室にきて、セインは医務室にって、分かれてから一日くらいしか立っていないのに。

長く感じるのはなぜだろう。

また、時間が止まっているのを感じる。

なんでだろう。

 

ねぇ、セイン、一緒に探そう。

歴史とか、いろんな口実で、この戦いが終わって、あなたが南の南の南に行ってしまっても、会う理由、見つけよう。

海を隔てたら、もっと知りたくなるはずだから。

ねぇ、セイン、もう少しこのままでいたい。

あいさつのハグってことで、キーアには大目に見てもらえないかな。

歴史を反芻してるだけだって、公的なものにならないかな。

テキウスは多分、煽るだけだと思うけど。

 

ねぇ、見つけよう。

あたしたちが、出会った意味。

南部でも、南部の南部の南部の離れた島でもいいから。

答えなんてなくてもいいから、もっと知りたい。

あなたを抱きしめるこの腕が、あたしを焚き染めてくれるあなたの腕が時計を振り返ることを忘れさせるから。

 

――――これは、エザーヌにまで広まった、二人が抱く物語である。

時代はいつも、このときを惜しんで止まない。