さて、当の託された二人は依然、廊下にいる。

先に進みたいのだが、お互いの重荷が足を引っ張り合い、進めないのだ。

シュマイツァーは、キーアの事務処理能力を買って、セインのサポート役に彼女を宛がったのだが、この場合まったく機能していない。

先に進むことができないセイン。

なぜなら、その廊下の暗闇には、キーアの底なしの穴が存在しているからだ。

どっぷりハマッて、抜け出せないセイン。

その特有の香気に神経が解かされ、方向感覚も歩くための神経も麻痺してしまっている。

それが心地いいのか、その穴をずっと抱きしめるセイン。

誰からも、受け継いでいない自分だけの妖精の姿に、かえって、腕の力が増す。

 

暖かい。

キーアの首と肩の間に、うずめる自分の顎がたまらない。

どこまでも白い素肌のぬくもりが、心地いい。

出会ったときは、雪化粧に感じられた真っ白さ。

それも、今では間近な炬燵。

黒い布で覆われたその白い光は、赤外線よりもあったかい。

胸の芯の鉄の塊を、炉心に変えていく。

その炉心が解けすぎて、キーアの胸に張り付いてやまない。

そのやわらかさは、とろけた炉心をふくよかに包む。

世の中の常識やコンプライアンスも、それは柔軟に蕩かしていく。

ここには、それを密告してクビにするような人もいないから超安心。

 

キーアが「令覧室に行かなきゃ」とポーズをとっても、張り付いた炉心はなかなか剥がせないよ。

最近、いつもベトベトだから、余計に剥がせないよ。

こうやってくっついちゃったら最後、そのまま。

キーアの胸が柔らかすぎて、どこまでもその中に入っていきたい。

解けた炉心は、どんどん進入していきたい。

炉心に対する禁止令は、ここにはないからいいよね。

監視しようにも、ここにはカメラなんてないから無理。

そんなものがあっても、キーアの豊満な胸に包まれて見えないよ。

それに、こうやって雪のように、白いキーアの素肌を暖めてるんだ。

ほら、触ると少し冷たかった、キーアの指も温かくなってる。

握り返される手のひらが、とろけそう。

なんだが、こっちの力が抜けていく。

このまま抱きながら、ずっとキーアに包まれていたい。

 

ねぇ、知ってた。

炉心は包んでおかないと、すぐに硬くなっちゃうんだよ。

遠く離れて、思うだけもいいけど、それだけじゃ硬くなっちゃう。

こうやって、会えたときに包んでもらわないと、やわらかくなる術を忘れてしまうよ。

キーアの雪のような肌が、化学反応を起こすんだ。

キーアのその辺の花にない匂いが、僕を無条件にするんだ。

キーアの黒い布に包まれた秘密が、たまらないんだ。

もっと、この中にいたい。

もっと、この夢に浸っていたい。

 

我慢した日々は、巻き戻したりはできないから。

今、ここでオレは全力を尽くしたい。

屁理屈なんかじゃない。

キーアとなら、なんだってできると思ってる。

思ってるんなら、伝えていかなきゃわからないだろう。

ただ作戦のためとか、テキウスの意思を継ぐとか硬いことは後でいいんだ。

オレは、今ここで全力なんだよ。

全力でキーアに伝えたいし、キーアのことを知りたいんだよ。

解けた炉心を全部キーアにぶちまけて、キーアを火傷させちゃって、オレもどこにいるのかわからくなって、そこからなぜか要領のいいキーアに集めてもらって、形作ってもらって。

出来上がったら、かわいいってキーアに撫でてもらって、火傷させてしまったことも全部きれいさっぱりに流れて。

 

そうやって、キーアの肩にあごを乗せながら、歩いていきたい。

オレの炉心が再びごった返しても、キーアに受けて止めてもらって歩いていきたい。

それでキーアをまた火傷させてしまっても、今度はオレの炉心で溶かしたていたい。

オレの熱さでキーアに張り付いた全部、まっさらにして、オレの好きなキーアの白い素肌を余計に綺麗にしてみせる。

 

だから、お願いがあるんだ。

これから祠に行って。

何があっても、オレのそばにいてくれ。

オレを助けてくれ。

多分、そんな火傷仕事、要領のいいキーアじゃなきゃできない。

いや、キーアじゃきゃ託せないんだ。

オレもキーアを守る。

そのために、キトル・レアへ一緒に来きたんだ。

そのために汚れたっていい、キーアの白い素肌に触れれば真っ白になれる。

そのことでキーアが汚れても、オレの熱さでそんなもの吹き飛ばしてみせる。

 

だから、行くんだ。

二人で。

そして、見せてやろう。

500年の汚れだって、取っ払える熱さを。

テキウスじゃできない、オレたちだけの白熱を。

 

ねぇ、どうかしてるだろう。

オレの炉心。

沸点も全部、キーアのせいで飛んじゃったよ。