このセイン、付随してキーアも、祠への突入作戦に選ばれている。

それはセインが、選ばれし者の一人だからである。

祠の中央にいる英雄・希望神アスタレスタは、同じ英雄かそれに近しい人物でなければ心を開かないであろう、というシュマイツァーの判断である。

一般的には、テキウスこそまさしく英雄であり、祠の中央にいる希望神アスタレスタの息子であることを見ても最適に違いないのだが、なにぶん昏睡している。

それに、これもシュマイツァーの憶測だが、テキウスは病から復帰しても祠には出向かないかもしれない。

 

この意見には、ハウミもうなずいた。

先の激闘で、テキウスが最後につぶやいた言葉が、彼女の鼓膜に残って消えなかった。

 

「・・・・・ソール達よ、今までありがとう。」

そのときほど、彼の緑眼が澄み通っていたときはなかったという。

めくるめく暗雲のなかで、彼の瞳は自身が生み出した、ソールという光を余すことなく受け入れていた。

地上最高峰において、エメラルドが最高潮に光を帯びた瞬間であった。

緑色の太陽の光が、暗闇を照らしていた。

そこを走る伝説の雷光さえ、その存在感を忘れていた。

勢いよく産声を上げる雷光を飛び越え、その緑色の光はすでに満ちていた。

その光があたりを包む前に、暗雲に閉ざされた空が開けたような気がした。

碧い空が、暗雲を押しのけ、緑に近寄ってきたような気がした。

いや、暗雲たちが何かに吹かされ、間を空けていったと言う方が正確だったかもしれない。

 

そこには満面の空が、柔らかな陽を広げていた。

そのときのそれは、春の陽のようであった。

大きく、暖かかった。

その陽気につられて、碧い風が踊りだしてしまうほどに。

溢れるばかりの陽が、緑色の双眸を囲っていた。

そこに犬でもいたら、居眠りしてしまうような、安心できるような明かりあった。

 

地上に訪れた光を見て、緑色の瞳も何かを頷いたような気がした。

依然、どこにもよどむ場所のない緑眼。

うららかな陽に包まれて、その瞳は柔らかさをさらに増す。

ハウミが、一度も見たことのなかった戦闘中に溶けていく、テキウスの表情であった。

その輪郭には、日陰など写っていなかった。

暗さを無理やり、押し込めているようでもなかった。

内面からの光によって、蕩けているようであった。

今までハウミに見せた、どの表情よりも、ハウミの心臓を解した。

そこにいた犬がおなかを上に向けて、昼寝をしているのが見えた。

 

空前の春の景色に、蝶がここまで踊りのぼり、犬の腹の上で横たわっていた。

それを見ると、ハウミの胸がくすぐられた。

それを見ながら、テキウスの双眸が細まっていた。

このままかわいかわいしそうなほどの崩れ具合。

その崩れた双眸の跡からも、光がこぼれていく。

エメラルドの粒が、太陽の白い光を帯びて、お犬君に届けられていく。

 

それを見て、ハウミの目も急速に細まっていく。

でも、それはテキウスと同じ細まり方ではなかったかもしない。

ハウミの細まりには、若干、収縮運動も入っていたからだ。

春を迎えて去っていく季節を偲ぶという。

そんなハウミの表情を露知らぬ体で、満開の光をどてっぱらで吸収するお犬君。

そんなお犬君を認めた後、ハウミに持ち寄られる緑色の春。

その春から、桜が、緑色の花吹雪が、贈られてきた。

太陽の光を受けて、腕白に。

その流れを受けたのは、ハウミだけではなかったのかもしれない。

多分、そうだったろう。

みんな、その後を受け取っていたはずだから。

 

ううん、キトル・レア全域、

ううん、もっと、エザーヌまで。

まだ会っていない、青き芽吹きの隅々まで。

 

どこまでも、最後まで、盛大に包んでいった。

うららかな陽と、碧き空はそのままに。

 

それから変わっていたのは、伝わってくる暖かさとは裏腹に、ハウミの頬の端が水滴ののりと流れの勢いで少し冷めていたこと。

ハウミがその水滴を払って、すぐに、テキウスの肩を支えに走っていたこと。

それを知ってか知らずか、お犬君があくびをして起きはじめたこと。

それからハウミの太ももにスリスリしながら、別の人にお腹を持ってもらっていたこと。

それを見て、声を立てるテキウスの姿が幻に見えたこと。

そんなテキウスを、今でも抱きしめている自分がいること。

そのハウミが見た夢に、シュマイツァーが頷いたこと。

それに、セインとキーアが賛同したこと。

 

---大好きだよ。

地上で一番高いところから発された声は、今も彼らに受け継がれている。