かすかな破顔とともに伝達されるそれは確実にパレス部員達を地の底に叩き落した。

その使用については、人類の絶滅への恐怖により凍結する条約があり、風前の灯の善意はその条項を照らして続けているはずであった。

その証拠に、500年前は地上政府を再起不能にまで汚染しており、後遺症は今でも後を引いている。

キトル・レアは、自分達の誇る人類最大の穀倉地帯を失くしたのである。

古代の英雄がその穂を愛でた楽園も、ヴェセランを上昇させた穂の勢いもすべて、架空の産物に

なってしまった。

それゆえに、ここ500年間、どのような内乱においても、最高度は使用してこなかった。

それは、地上の方でも同様である。

もっとも、彼らの場合、それを開発する余裕すらなかったのであるが、最高度と地上で共有できる数少ない善意のはずであった。

それをなぜ。

みなの目は依然、タイケージに向けられている。

その視線を受けるタイケージは、依然として和やかな表情を崩さない。

その顔のおでこやほっぺには明かりが満面に照り返し、まゆはのどかに曲がり、その目じりは光がこぼれ出そうなほど細まっている。

そして、こぼれ出る光に言葉を織り込んだ。

それは、幾度にわたり禁断の兵器を使用してきた、極悪人の顔とは思えなかった。

 

「・・・・・人が寄り付かなければ、アステリアは眠れるのじゃ。」

ライトが、彼の相貌を照らし込む。

それは依然、彼の相貌全体を覆っているが、それはつまり、その翁に刻まれたしわの一本一本を明確にしていた。

深いしわが行く筋も目じりからはしり、あやの中にしまいこまれた影の深さも感じられた。

表面のライトアップされたしわの山はうやうやしく隆起しているが、同時に影もまたしげしげと掘り込まれている。

それらはこめかみにいかないところで一つになり、平らな表膚に均らされている。

幾筋ものしわの光と影が現れては、平らに均されていく。

目じりのしわたちはは真っ直ぐに均されていくばかりではなく、紆余曲折を経てようやくにしてこめかみ付近で梳かされているものもある。

そのしわの流れの大元に位置する二重瞼は、それらの流れを端に留めながら、下の瞼にまつげを持ち寄っている。

下の瞼のまつげもそのまま上のまつげと合わさっては、流れ行く目じりのしわを偲んでいる。

内包されている瞳は、それらの仕草を湛えている。

その瞳の中にも、ライトにより明るむ部分と、影になる部分が散在している。

それでも、まつげの隙間を通して、光が皆にこぼれていく。

そのタイケージの仕草に一瞬、ピクつかせ、細やかに目を伏せる者、目を見たままそれとなく頷くもの、目に若干の地柱を立てて凝視する者、一瞥するだけで目を背ける者、ただボーっと眺めている者まで様々である。

 

彼らの何人が、タイケージの心情を理解していたか。

アステリア平原は肥沃なだけでなく、最高神ヴェセランを頂いたタイケージらの最高度の聖地である。

先の大戦では、その豊かさから争奪地となってしまったが、自らの聖地を戦火に巻き込むことをタイケージらが率先したという記録は資料には散見されない。

むしろ、豊かなこの平原以外で、戦局を決定しようとした形跡がある。

実際、最高度にいたる要衝である上昇塔は、アステリア平原のある場所より西南側、正確にはキトル・レアの中央部に存在する。

彼ら最高度の立場としては、アステリア平原に要衝を置くことを意図的に避けていたのである。

それは戦争が起きた際、この地で兵器を使う愚かさを知っていたからである。

食料生産の意味からも、彼らのこの地への感謝の面からも。

そういった思いを抱いていたタイケージが、500年前にこの平原を死地へと変えた。

その心境は、歴史文書には一切記述されていない。

言えることは、希望神アスタレスタが起こしたとされるアステリア戦争は、最高度を失墜させるために十分なものであった。

そこで勝つためには禁じ手を使う以外の方法が見当たらなかった。

それゆえに、タイケージは独断でアステリアに冬を撒いた。

そんなタイケージを最高神ヴェセランは罷免することもなく、戦略神という最高度を実務的に束ねる立場に留め続けている。

500年間ずっと。

それ以外の事実は、年表には載っていない。

考えてみれば、人間とは、人一人の思っていることすらわからない生き物である。

なまじ器用に言葉を発し、文字を残すがそれも立場に縛られており形式的なものでしかないことも珍しくない。

タイケージがこの地に黒い雨を降らせた心境は、当事者でなくてはわからない。