再び、戦略神の膝元にて。

その一室の中央にある、大スクリーン。

その平面は、楕円形状の透明な水晶体の中央に浮いている。

前後に透けており視野角が広いため、実質どの位置からでも眺めることができる。

ゆえに、この部屋にいる者たち皆で、ひとつのスクリーンを共有することがもっぱらとなっている。

さながら、大家族で大スクリーンを共有するかのようだ。

 

そこに写る、降下中のシップ。

それを震源として、ざわめくスタッフたちの声。

平素、作戦を遂行している際、雑然さと無縁であるこの一室においては、珍しいことであった。

各々のインペリアルパレスの制服が、無秩序に向きを変える。

チラチラとその部屋の中央に胸央が寄せられては、返されて周囲の者たちに姿勢が泳いでいく。

 

ある者は、自身の水晶体にさまざまな憶測をタッピングしては、周囲の者に確認をとっている。

たたき出される予想の数々が、大スクリーンの脇に行となって上下に並べられていく。

あまりに無数の行に連なるためか、それがひっきりなしにスクロールされて落ち着かない。

当の入力した張本人も出力された膨大な文字や数字に焦点を合わせられず、周囲の者の目方を参照してしまう始末だ。

 

中には、入力した情報がエラーとなり、頭が赤くなってしまっている者もいる。

その高熱の冷却を隣の席の者がうちわで行い、空気までが散らかってしまっている。

オーバーヒートした者も、うちわで扇ぐ者も、中央に視線を寄せるが、空気の交通整理の指示はまだ出てこない。

それゆえに、自身で標識を生み出そうとしては、再びオーバーダウンを繰り返している。

 

終わらないダウン現象に飽き、隣の者の仰ぐうちわも放っぽりだされ、散らかっていく室内。

室内だけではなく、大スクリーンもそのようなエラー現象が相次ぎ、レッドシグナルが多発し、視線の寄せどころが暴発してしまっている。

シップが降下するまで整然としていた水晶体は、360度レッドモザイクの現代アートの博物館仕様となっている。

 

このような異物を眺めながら、中央席の司令官が、そばにあるポテトチップスをかじっているが、空いた袋達を片付けることも忘れている時点で以下同文。

いや、特有のドブねずみ口でチューチューしているさまは、真っ先に人間離れしている最前線だ。

その眼光は下水に落ちている獲物を射すくめるかのように鋭い。

口の中にあるものよりも、次の獲物を求めて飽き足らない様だ。

何か考えているのか、口角の脇の触覚を空いている片手でしきりにいじっている。

周囲の部下達とは、別の意味でせわしない。

そのためか、足には注意力が皆無で、姿勢まで壊れてしまっている。

その様は、ポテトチップスのクズとよく似合う。

いずれにせよ、彼が生み出したオリジナルの空間だ。

畜生的なその様は、もはや計器類や電卓とはほど遠い。

身に着けている衣類の色も、黒済みを通り越して、下水のマンホールの穴の色が似合う低水準ぶりだ。

相対する下水処理人よりも、地番沈下した地底獣のそれにふさわしい。

 

周囲の者達も自分達よりもさらに行儀の悪い司令官を見て、自分達の取り留められている品性を発見し、かえって、安心してしまっている。

自然と、静まり返る彼ら。

落ち着きを取り戻したと言ってもいい。

そのように、自分は何もせずに居住まいだけで皆を落ち着かせる彼は、稀有の司令官といってもよいだろう。

配置された最高度のソロバンでも、スクリーンの予想図でもできなかった事態の収束を、理屈抜きに可能にした戦略神。

 

その片手には、ポテトチップスはもう握られていなかった。

皆の視線が痛かったからか。

否。

彼はそれよりも水晶体に手を伸ばすことにしたのである。

以前のように、手近なジャンクフードに染めるでもなく、新たな獲物を仕留めるべく、皆に狩りの未来図を用意するために。

その口にも、ポテトチップスはなかった。

この静寂においてそれをすれば、引いていく周囲によりさらに静まり返るだろうが、彼はそのような安易な手段はとらない。

そこは、戦略神。

頂において、地の底まで見渡せる異形の男である。

それはドブネズミゆかりであろうと、ゴキブリゆかりであろうと何でもよかった。

彼には地の隙間にあるものが見えた。

性格には、そこで余裕でカサカサすることができた。

自然と、彼の水晶体に当てられた指がタッピングされ、その該当する地の隙間に進入した。

そして放った。

最高度を空の隙間にまで割り込ませた、甲高い、か細い声で。

「地雷じゃ。

突破口はそこにある。」

タイケージの指のタッピング音のみが鼓膜に響く。