―――ツェゲレフ様、お通り。
噂の宰相閣下の馬車が、市場を抜けようとする頃。
詰め寄る群衆。
出家もしていないのに、スキーヘッドな星目がけて。
「ツェゲレフ様――――ッ」
声を上げ、絶叫する群衆。
それに手を上げ、応える噂の宰相閣下。
そのたびに、光る自前の星。
視線でも、その声の主たちに応える。
二重のよく開いた目が、群衆に届く。
黒い目は、頭上のテカリとのコントラスト抜群。
その漲る精気が、頭とのギャップを生む。
決して、抜けているわけではないトップ。
裸一環で、勝ち上がってきた自身のシンボルとして、剃刀を入れただけ。
日々、一点の曇りもなく見える信念を、鏡の前で確認してから登壇するスター。
その輝きは、今日も剃刀により支えられている。
その利き腕を今、高々と上げる。
「オ――――ッ」
過去、これほど、ツェヒルン王国において、民衆の絶叫を誘った宰相閣下がいただろうか。
彼は、この日のために、容貌を磨き上げてきた。
人々に、いつ見られてもいいように。
朝は、ブルマ系貴族服でランニングしてきた。
ここまで認知度があると、外ではできないので、王宮の庭で、走ってきた。
その広さは、毎朝、王の為ではなく、ひたむきな彼のためにあった。
冷笑する他の貴族どもも、振り返らず、夢中になる彼のために。
理想のフォルムを維持するためには、それだけでは足りなかった。
数多の銅像たちと張り合いながら、スクワットをしなければならなかった。
その際も、銅像たちの上半身の直立不動さに、負けるわけには行かなかった。
その185にもなる長身を翻せば、楽はできた。
歴代のツェヒルン王も味わえなかったような、ひとたびの享楽を満喫できた。
ささやかな煩悩の叫びが、毎朝、銅像よりささやかれる。
中には、対して、トレーニングもしていないで、銅像化した王たち。
それでいて、自分で自分の巨像をプロデュースするまでに、高まる魔法力。
動くのは他人、金はいつも大臣がプレゼント、女も誰か持ってきてくれる。
とりあえず、モテるんだからトレーニングしないのがトレーニング、わかるかな、キミ。
増長する魔法力は、留まるところを知らなかった。
それを望めなかったのは、宰相閣下。
魔法力を増長させれば、左遷され。
やけくそに酒池肉林に拭ければ、「中年太り」でフタをされ、見向きもされない。
クソ―ッ。
そのバネにより、のし上がった上体。
日々の怠りのないスクワットは、彼の上半身を安定して見せた。
キャー、ツェゲレフ様――――ッ。
女性たちの歓声が、まぶしい。
そのまぶしさの陰に、朝の闘争が溶けていく。
今では、馬車の殿上人。
庶民たちは、毎朝の彼の怨念型ブルマ系スクワットを知らない。
知らなくていい。
今のわしは、スター。
王庭の銅像と張り合った日々も、影となって霞んでいくわい。
そう思いながら、微笑で返すツェゲレフ。