言い直せば、娘や家財を取られる際も、抵抗すらしなかった家族たちのなれの果て。
どうせなら、役人どもを刺し殺すか、のし上がり、そのような悪事を踏み潰せる力を勝ち取れば良いものを。
無抵抗だから、御しやすく思われるのだ。
余は、そうであったぞ。
紫の瞳に、ふと、青と赤の感情が入り乱れる。
ピラミッドにさえなっていない巨大な上層の圧力に、息を吸うことしか許されなかった日々。
息を吸うこと以外をしようものなら、親兄弟が寄ってたかるような日々。
恋人が供されようと、押し黙ることを強要された日々。
気に入らない奴の言うことを聞かないだけの力がいると、確信した日々。
舐められたら、相手の真の髄まで糧に変え、黙らせてきた、闘争の日々。
敗者であり、強者に甘んじることを、潔しとしなかった日々。
敗者として向上した日々もあり、勝者として玉座を貪る自墜落を、恥じた日々。
一筋縄でいかない自分を、のっけから蓋で押し込む上司に、楯突いた日々。
ただ、勝利が欲しかった。
気に入らない奴を、突き放せるだけの頂きが。
“闘う意志のないものに、手を貸す気はない。”
いつしか、そうやって猛進している自分がいた。
いつしか、それについてくる戦友がいた。
いつしか、敗者となっても、共に、笑い飛ばしあえた。
いつしか、駆け上がりたいと、思った。
いつしか、うずくまる者に、差し伸べる手も、罵倒する舌も、忘れていた。
紫の瞳に、赤と青の点滅が、繰り返される。
激情の持ち主が、透徹された現実感覚の持ち主が、一心に混じっていた。
ヴェセランが、多くの人物より、尊敬されている理由である。
ヴェセラン
「・・・・戦場で、女子供は邪魔だ。
下がらせよ。
・・・・市民軍とやらの戦ぶりを、後で、語り継がせるのだ。」
紫の瞳に、水色の姿が宿る。
それは、高温のせせらぎであったか。
冷たい深層水が、マグマにより噴出した結果であったか。
次の戦場に身を晒すことを決めたヴェセランが、置き残そうとした餞別であったか。
青緑の瞳に、紫の陽炎が写る。
細まる白い瞼が、それを噛分ける。
いい男だ。
私を、これほど響かせるとは。
この男には、繕いも、追従も、冷や水としかならないのだろうな。
ならば、われらが口移しで伝えてきたぬくもりを、明かそうか。
彼には、その器がある。
アスタレスタ
「・・・・・私の魔法は、彼らを照らすためにある。
我が灯を、彼らは持ち帰りたいのだそうだ。」
青緑の瞳から、白肌に笑みがこぼれる。
頬のえくぼがそれをため込む。
崩れた唇からも、堪えきれず、漏れ出てくる。
後ろに守護神でもついているのか。
勝手に祭り上げられることに、これほど、無邪気になれる男がいるとは。
――――太陽。
ヴェセランは、あのときの光を思い出した。
自軍の兵士たちを、奮い立たせた輝き。
最前線において、一人、立ち上がった自分さえも。
キトル・レア最大の穀倉地帯・アステリアにおいて、互いの穂を、二人は垣間見た。