キーアのおかげか、床に敷き詰められた紋様が自身を冥界に誘い寄せる景色には、今回は写らなかった。
もう、自分のミスで、皆を突き落すようなことも、あるまい。
そして、ハルキに視線を合わせる。
それは、すがるというより、奇跡に対する感謝であった。
シュマイツァー
「・・・・ハルキ・シュバルツ。
よく来てくれた。
もう、オレ一人で、作戦を踏み外すこともあるまい。
オレが至らないときは、遠慮なく、叱って欲しい。
昨日のようにな・・・・。」
再び、垣間見えるシュマイツァーの奥ゆかしさ。
それは、敗戦の責任者でしかわからない、すがすがしさのこもった笑顔であった。
キーアの励ましのおかげで、平静を取り戻せたことも、功を奏しているのか。
キトル・レアの力で状況を打開しようとした愛国心が、エザーヌの力で癒される相乗効果。
未来は、こうありたいものだ。
ハルキ
「・・・・ハルキでいいぜ。
ヤクザもんのカンが欲しけりゃ、いつでも言ってくれ。
・・・・一番きつい戦場に、オレを回せ。
代金はテキウスのツケだ。」
大きく見開いた目で底意地悪く放つハルキ。
相変わらず、ふんどし一丁で逆立ちするような言だが、目の輝きはシュマイツァーを捉えて離さない。
「キトル・レア行」という前例のない目途に雷同したときから、天性の算盤根性を投げ捨て、家財道具を放り出しているのである。
シャン・タイン戦よりも、テキウスに張り倒されたときの方が、よほど、こたえたのかもしれない。
シュマイツァー
「・・・・それはいい。」
そう言って、珍しく、シュマイツァーが笑い出した。
それは、ハルキの裏返った野良犬根性対する賛辞であったか。
頼りになる仲間が揃ったことに対する自慢の笑みであった。
敗戦の責任者という汚名を、勲章として洗い流すものであったか。
キーア、ハルキと言った、エザーヌの力の不思議さに、惜しみない歓待を祝すものであったか。
今までの隊では、テキウスやシュマイツァーが一括して行わなければならなかった、皆への励ましを、引き受けてくれている異国の集団への限りのない感謝であったか。
筆者思う。
セイン、キーア、ハルキの到着が、あともう少し遅れていれば、シュマイツァーは一人、隊を辞めることを、決意していたかもしれない。
それは、テキウスの存命に関わらず、である。
そして、もう二度と、国家を左右する業務に就こうとはしなかったのではないか。
それほど、エザーヌの皆は、眩しい。
自身の後悔を洗い流すのに、溢れた知性とウィット。
傍らで、キーアが、横たわるテキウスに、手をかける。
エザーヌの女神が、そのウィットを全身で手向ける。
傷つかなかった自分たちが、傷ついた仲間たちに贈ることのできる、さりげない持ち寄り。
キーア
「・・・・・動いている。
みんな、テキウス君の心臓、動いてるわ。」
そう言って、シュマイツァーの手をとって、テキウスに、寄せる。
キーアの白い腕と、シュマイツァーの薄肌色の腕が、テキウスの体の上で重なり合う。
セイン、ハウミ、ハルキの掌も、キーアに急かされて、テキウスに集まる。
生きている。
温かい・・・・・。
今、シュマイツァーは心の中で叫んでいるに違いない。
テキウス・・・・!
オレ達は、間違っていなかった・・・・・!!
運命は、敗北したオレ達にさえも、こんな素晴らしい仲間を、用意してくれいるのだから・・・・・!
シュマイツァーは、泣いた。
闘って、仲間を傷つけて、それでも、自分にはまだ、仲間と手を合わせる資格があるらしい。
しかも、お前の鼓動の下で。
テキウス、今しばらく、眠るがいい。
その間に、オレ達で、お前のための舞台を、用意してやる。
オレ達の想いは、まだ、終わらない・・・・・・!