「人が死ぬところを見たいと思わない?」
平均的な成人男性の身長より少し低いかと思われる分厚い木の板が立て掛けてあって、そこには両手に手錠をかけられたほぼ全裸の女の子が不自然な体勢で展示されている。女の子の顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃで、瞳には絶望を宿しており、なんとか逃れようと必死に暴れていた。その周りには様々な国籍の人間たちが、目の前にいる少女の存在に気付いてすらいないかのようにワインを片手に雑談していて、さながらパーティ会場のようだった。そんなところに、わたしは見慣れた人の顔をみつけた。あいつだ、あいつがいる。年甲斐なく周りの迷惑も考えず焼けた肌を露出しまくり品性のカケラも感じられないあの立ち振る舞い…見間違えるハズもない。こういう場所や集まりがあることは、実際に見たことはなかったが認識はしていた。この世界に、映像の片隅に映っている、青いシャツにスーツを纏った高身長で品のある青年のように、そうとは見えなくとも心が腐れきった人間がいるのだと言うことを、わたしは知っていた。わたしはその場にいる人や出来事には干渉できず、声も届かないけれど現実に限りなく近いところで、リアルな映像としてそれを視ていた。あるカメラはそこそこ日本で知名度のある、とあるYouTuberを捉える。インタビューの約束があったのだろう、撮影者は彼に問う。「貴方は何故ここにいるのですか?」そして彼は次のように答えた。「え、だって人が死ぬところを見てみたいと思ったことありませんか?」思った通りだった。この歪な空気と空間と人間たち…ここは、「そういう場」なのだ。あることは知っていた、でもまさか自分が視ることになるとは。裕福な人間ほどこういう世界に足を踏み入れやすいし、何より護られている。縛られてるあの女の子をなんとか逃してやりたいとか、助けようと声を上げることは、この場ではなんの意味もない。彼女を助けてあげるような人はここにはいないし、わたしのような無力な人間がひとりで助けようとしたところで不可能なのは火を見るよりも明らかなのだ。この「世界」ではそんな綺麗事は一切通用しない。正義感や正しさという光を胸のうちに宿す者ほど、この底知れぬ闇に支配された場所では己の無力さをただただ痛感し打ちひしがれるしかない。少年漫画やアニメである、自分の比にならないようなとんでもなく強大な力を持つ敵を前にしたときの絶望感に支配される気持ちってきっと、いや間違いなくこういうことなんだ。…声も出せなくて冷や汗をかくしかできなかったけど、続きは見れずに目が覚めてしまった(-ε-)