『ロバート・キャパ写真集』 が出版された(2017年12月)。岩波文庫では初めての写真集だそうだ。キャパが遺した約 7万点のネガから弟コーネル・キャパが選んだ 937点のうち 236点の写真が収められている。コーネルは国際写真センター (ICP) の創設者として知られている。
 
 私はエッセイ 「シャルトルにて」 で、フランスを占領したドイツ軍兵士との間に子をなしたフランスの女性が頭をそられて民衆のあざけりの中を引きたてられていくようすを写したキャパの写真について書いた。早速写真集のその部分を開いてみた。例の有名な写真ともう一枚、同じ女性が同じく頭をそられた何人もの女性の前を歩くところが収められている。キャプションには 「シャルトル、1944年 8月18日」 と記されていた。
 
 ロバート・キャパは1954年 4月 『カメラ毎日』 の創刊にあたり招かれて来日した。東京・大阪・京都・奈良などで日本の休日を楽しんでいたが 『ライフ』 誌の要請を受けて急遽インドシナに赴き、フランス軍に同行中 5月25日に地雷を踏んで亡くなった。40歳の若さだった。
 
 キャパの仕事の意義についてはこの写真集のICP関係者による序言や解説に尽くされているが、その中に次のようなキャパの言葉がある。
 
「何十万という人々がこうして逃げまどうのを、私は二つの国、スペインと中国で見てきた。さらに何十万もの、いまはまだ他の国で良い暮らしを営んでいる人々も、やがておなじ運命をたどることになるのではないかと、私は恐れている。それこそ、私たちが生きることを望んできたこの世界で、近年起きていることなのだ。」(p.303)
 
 キャパがこう書いたのは1939年 1月、79年も前のことだ。彼の予測は不幸にして当たり、その中で彼は命を懸けて 「戦争写真家」 として活動したのだった。
 
 世界の人々は戦争写真家の失業を夢見ながら、今なおシリアをはじめ世界各地で多くの人々が戦争によって苦しんでいることを知っている。
 
 「キャパの写真集は過去の記念品ではなく、今なお人々が向き合うことを求めている」 といった思いで、私はこれからも写真集を何回も見ることになるだろう。