社会人3年目成人男性です。
某県で一人暮らしを始めて1年半経ったある日、事件が起こった。
たまたま5日間、家を空けることがあった。
家に帰ってくると、5日前と変わらぬ我が家がそこにはあった。ごく普通の生活感に溢れた1Kだ。
何も変わらない。今日からまた仕事で忙しい毎日がスタートする。
はずだった。
帰って来てしばらく経ってから異変に気づいた。
ベランダだ。ベランダに異変あり。
見るとベランダの床に木の枝の塊が落ちていた。およそパパイヤ鈴木の頭髪ほどだろうか。無論、5日前にこんなものはなかった。パパイヤ鈴木がベランダに散乱していた。
混乱した。動揺を隠せずにいた。ただ立ち尽くし、床に散らばるパパイヤを見つめることしかできなかった。
僕はベランダを出て、カーテンを閉めた。ソファに座り、心を落ち着かせる。
(あー… 隣の部屋のヤツだ… )
そう思った。心当たりがあったからだ。
物音など一切ない深夜、突然の壁ドン。連続の壁ドン。
そんなことがよくあった。細かいことはあまり気にしないので、特に苦情を言ったりだとか管理人に相談などはしなかった。他人に嫌がらせをして、憂さを晴らす人もいるんだなぁくらいにしか考えていなかった。
その結果がこれだ。いくらなんでもやり過ぎだ。然るべき対応をする他ならぬ。
しかし証拠が無いとなかなか行動に移せない。そこで僕は犯人を泳がせることにした。どうせこういうヤツは何度も同じことを繰り返すだろう。泳がせて確実に証拠を掴もう。
それから数日経ったが、犯人は何も行動しなかった。ベランダの床には依然としてパパイヤがいた。
もう諦めようかと思ったその時である。どこかから
「…ボーー… …ボーー…」
不気味な音が聞こえてくる。今まで聞いたことがない音。
ベランダの頭上に設置されたエアコンの室外機から聞こえる。
背伸びをして室外機を確認する。
頭上に設置されたエアコンの室外機の上、その狭いスペースに衝撃的な世界が広がっていた。
そこにもう一人分のパパイヤ鈴木の頭髪があった。
そしてパパイヤ鈴木の上にハトがいた。
パパイヤに鎮座するお腹の大きなハトと目があってしまった。
僕は驚いた。それ以上にハトも驚いていた。
「ハトが豆鉄砲を食らったよう」という言葉がある。思いがけない出来事に驚いている様子を表す言葉だ。
ハト自身が「ハトが豆鉄砲を食らったよう」な顔をしている場面に出くわす機会はそうないだろう。
犯人はこいつだ。室外機の上に巣を作るために材料のパパイヤを運んでいたのだ。
一人暮らしだと思っていたら一人暮らしではなかったのだ。
しばらくしてもう1羽ハト(たぶん旦那)が増えた。
ヒト1人とハト2羽。ハトの方が多い。
巣は完全に完成されている。今さら追い出す気にもならなかったので、そのままにしておくことにした。
細かいことは気にしないのである。