モスクワ会談における朝鮮問題の討議の過程では、アメリカ側は「統治」に主眼をおく提案を行い、ソ連側は「独立」への援助に主眼をおく提案を行って対立し、結局ソ連案が通って決議されました。


この経過について、のちに北朝鮮側からは次のような解説が示されております。



「同会議でアメリカ国務長官バーンズは朝鮮問題に関するアメリカの決議草案を提出したが、それは朝鮮人民の主権と民族の利益を乱暴に踏みにじる侵略的な提案であった。まずそれは、朝鮮に信託統治制度が樹立されるまで無期限にソ米両軍司令官を主席とする軍行政府を設け、その軍政機関が朝鮮の民族経済および政治生活を指導する決定的な部門を掌握するということを見込んだもので、朝鮮民族政府の樹立ははじめから度外視されていた。さらにこのアメリカ案によると、朝鮮政府が樹立されるまで信託統治が実施されることになっていた。そうするために朝鮮統治に必要な行政、立法および司法権を行使するソ、米、英、中四ヵ国の行政機関を設置しその権限と任務を高等弁務官と、この行政機関参加国の代表で組織される執行委員会を通じて実現するというのであった。そして信託統治の期間は五年ないし十年と規定されていた。米帝のこういう侵略的な提案は、朝鮮の自主独立国への発展に反対し、朝鮮に対する帝国主義的支配を再確立しようとする彼らの侵略企図が一貫していることを示すものであった。したがって従来の帝国主義者たちが植民地再分割の手段として、植民地隷属の狡猾な形態として利用してきた委任統治制の再版にすぎないものであった。後見制は、植民地的従属から解放された国家の場合においては、ただ独立的発展をめざすその国の人民の闘争に協力する手段、それを援助する形式とならなければならないのである。・・・・・・三国外相会議ではソ連代表が提議した政党な決議案が採択されたが、それは朝鮮を独立国に復興させ、民主主義的的原則に基づいて発展させるための諸条件をつくるために朝鮮臨時政府を樹立し、それを保障するための諸方策を規定していた」(金熙一「アメリカ帝国主義の朝鮮侵略史」)



ここに「国連憲章第十二章に規定された国際的後見制」といっているのは、第七十六条bに含まれる「独立に向かっての住民の漸進的発達を促進すること」を強調しているものです。


国連憲章制定のサンフランシスコ会議(1945年6月)においては、植民地の独立を憲章に明文化しようとするアジア、ラテン・アメリカ諸国と、植民地の温存をのぞむヨーロッパ諸国との意見が対立し、その妥協の結果、第十二章第七十六条bの表現や、十一章非自治地域に関する宣言第七十三条などの表現がとられたのでありました。


モスクワ会談においては「カイロ宣言」「ポツダム宣言」「降伏文書」の経緯からしても、朝鮮の独立を実現することが主要な課題であるから、ソ連側の主張する朝鮮独立への手続きを国際的に保障する案が決定されました。



このモスクワ決定に不満をもっていたアメリカ側は、その第四項による米ソ共同委員会を実現してゆく段階で、この決定を、独立への道であるよりは国際管理への道であるかのように強調することにより、南朝鮮(韓国)における民族主義的潮流までも逆用しながら、この決定を実現不可能に陥らせてゆくことになります。


こうして見ると、結局はアメリカ自身が戦後における「覇権域の拡張」を目論んで、他の大国も利用しながら日本の植民地解放以後の朝鮮をさらに自国の軍政下、つまり軍の最高司令官を主席において、当地を「総督」が牛耳る植民地として再利用するのが魂胆であり、無期限に軍制統治を施いた挙句、さらにその次は、アメリカはもとより、他の戦勝大国(ソ連・中国・フランス・イギリス)で分け合って「信託統治」として行政・立法・司法権を奪い統治するという内政干渉の極みで、民族の自決や国家の体裁もあったものでもない、徹底的に朝鮮を大国の食い物とする腹が見え見えだったというわけです。


事実、後の歴史でアメリカの海外に対する「行動」を見ても、とりわけ中東での惨状を目の当たりにしても、実際に行動に移しているのだから、たいへん恐ろしいものがあります。つまり、米が口にすることは「ハッタリ」でも何でもない、場合によっては武力侵略を実行する「脅しでもない本当の脅し」ということです。


また、実現こそはできなかったが、アメリカがこうした統治形態をなぜするのか、それは先ほどにも述べた通り、占領や主権を奪う統治を十年かそこいらですれば、後に「独立した」あとでも、その国の民衆には徹底的な親米洗脳を果たせるわけで、日本では「たった7年」の占領統治でそれが成しえてしまいました



こうやって、その国で人権や民主主義が成長することなど本来「どうでもいいこと」であって、いかに独立以後も忠実なる「属国」としてアメリカに忠義を尽くしてくるのか、古い観念でいうならば「親」として絶対権力を振るうアメリカと、それに逆らうことを許されない「子」である日本や韓国は、親の意向に逆らうことを恐れ、それに反抗する国のやることを「挑発」として一蹴し、親なくしては生きられない考えを植え付けられているので、真なる独立国となるのは「親が死ぬこと」以外には考えられないでしょう。



<参考文献>


・『アジア・アフリカ講座 日本と朝鮮』第三巻 勁草書房