〈動画説明〉

NHK かんさい熱視線 2015年10月30日放送
「傷つけられた子どもたちは今~ヘイトスピーチから6年」

京都朝鮮学校


有名な在日朝鮮人ブロガーのbubkaさんの記事(『あれから6年 子供達は今。。。 』)から、今から6年前に起こった、在特会(レイシスト集団)による京都朝鮮第一初級学校襲撃事件を追ったNHKかんさいのノンフィクション特集を拝聴致しました。

この事件の仔細については、日本のヘイトスピーチ問題に詳しいフリージャーナリストの安田浩一さんが、自身の著『ネットと愛国』(講談社)および『ヘイトスピーチ』(文春新書)にて述べておられます。

その当時の現場を無編集で表した動画がネット上にも数件あり、その代表的なものをここに載せておきたいと思います。(※大変ショッキングな内容の為、あらかじめ注意してご覧下さい)



これらの極右チンピラどもが吐いた文言の数々は大変おぞましいものであり、下品かつ低劣なのは言わずもがな、当事者の人々の心をえぐるような見るに堪えない差別的罵詈雑言を大音量で流し、学校の備品を破壊するという蛮行にまで及びました。

またこうした行動をネット上にアップして、実際youtubeやニコニコ動画でネトウヨから大喝采を浴びたのは言うまでもありません。

そのリアルとネットをまたぐ狂宴の最中、学校にいた子どもたちはどうしていたか。

数々の取材の上で明らかにされたのは、尋常ではないマジョリティの恫喝に怯え、時には泣き叫び、精神に深い傷を植え付けられた事実が浮き彫りにされました。安田さんの著述によると、「事件」が起きた2009年12月4日のその日。在特会メンバーら十数名が朝鮮学校におしかけました。

「朝鮮学校をぶっつぶせ!」

「我々はな、他の団体みたいに甘うないぞ!」

「日本に住まわせてやってんねや。おまえら端っこのほう歩いとったらええんや!」

「朝鮮人は我々の先祖の土地を奪った。日本の女の人をレイプして奪ったのがこの土地や!」

「朝鮮人はウンコ食っとけ!」

こういう大の大人、いや子どもですら吐かない常軌を逸した差別的な罵詈雑言を小さな子どもたちがいる小学校の「現場」で、それも大音量のスピーカーを用いて吐き散らかしたのです。

たまりかねた同校の教師らが「子どもがなかにいるのだから静かにしろ」と注意しても、なにが子どもやスパイの子やんけ」とやり返すばかりでした。ちなみにこの文言をほざいたのは西村斉という在特会の人間で、曲りなりにも「娘を持つ父親」だそうです。

無論この一件で西村は逮捕となり、いろいろな意味で人間失格の身分となり下がりました。

本題にもどって、差別的罵詈雑言はまだまだ続きます。

在特会によるヘイトスピーチの話題は、京都朝鮮第一初級学校の公園使用の件に移り「市当局と交渉中である」との主張も、約束というのは人間同士がするものなんですよ。人間と朝鮮人では約束が成立しません」と怒声が飛びました。正直聞いててこのように驚くほど悪劣で程度の低いものは、まともな社会生活をしている人間たちからすれば到底思いつかないものでしょう。

案の定、時は金曜の午後の時間、学校の中には100人以上の児童が授業を受けていました。

このときの学校内の様子については、中村一成の『ルポ 京都朝鮮学校襲撃事件』(岩波書店)でより詳しく論じられております。

ちょうどその時に外から在特会による聞くに堪えない罵詈雑言が校内にまで轟き、その日、誕生日を迎えた女児は「なんで、誕生日にこんな目にあわないといけないの」と泣き出し、それが周囲に伝播し、大勢が泣きじゃくった教室もありました。また、恐怖におびえる低学年の子を、上級生が「大丈夫だからね」と抱きかかえる姿も各所で見られました。

子どもたちは外に出ることもできず、ただ、教室の中で脅えていることしかできなかった。教師もまた、学校中に広まった動揺を抑えることと、校門前で侵入を防ぐことに精いっぱいでした。

「君たちは完全に包囲されている!」

押しかけた側の一人が、大型のハンドマイクで誇らしげに叫びました。

まさにその通りで、子どもたちは事実上の監禁状態に置かれていた」(同書)のでした。

しかし、在特会のヘイトスピーチもさることながら、この状況の異常性を極限にまで達させたのは、通報で遅れて駆けつけてきた京都府警の警察官自体が、在特会側に何ら実力手段を見せず、ただ傍観して「やめろ」と注意するだけでした。


これが何よりもマイノリティの人々を絶望へと追いやる光景で、この日本という社会において、おぞましい差別心によるヘイトスピーチはこれ以前も以後ものうのうと放置され、それらの心情をくみ取る認識すら存在しなかったこと、それはすなわち、マジョリティ社会における圧倒的な「無関心」や、深層下で差別主義を肯定する思考が社会のいたるところあるということ。

その代表的なものとして、ヘイトスピーチに関する規制は未だ存在せず、誤ったガラパゴス的認識に基づく「表現の自由」の解釈によって、人種差別の問題は「一般の言論」と変わりない、それらのものは討論における一部の「相対性」の中に属するものなのだという大変恥辱極まりない考えが未だにまかり通っている現状について、私自身は日本という国自体が甚だ『未開』だと決定付ける最大の証拠だと思っております。

本来レイシズム(人種差別)の問題は、国際基準から照らし合わせて「ゼロトレランス」なもの、定言的に決められたものであり、当事者が抗弁できない属性や歴史性を攻撃し、根拠なき優劣主義に基づく差別的言動を取り締まるものなのです。

ゆえに、一般言論における「相対主義」は全く入り込む余地すらないものなのは明白で、ましてや在日コリアンの問題は圧倒的なマジョリティである日本人社会の中で抑圧され、不当に権利を奪われてきたのはこれ明白な事実なのですが、反知性主義はこれを逆さに考えるという始末なのです。

もはやこれは自明の事ではありましたが、現に今回のNHKかんさいの特集動画を見て、ネトウヨたちは反省の色を全く見せず、いつも通りネット上でヘイトスピーチを繰り広げておりました。


「なぜヘイトスピーチされるか、その理由を報道しろよNHKw .... クソ犬HK!! 」

「密入国を奨励し法令順守を否定する犬hk」

「公平性がない、侵略的外来種移民侵略加担者の偏向放送局 = 先住民族日本民族への差別という証拠」

というNHKへの的外れな批判や、反知性主義による被害者と加害者の倒錯行為に出てみたり、

「アメリカ西海岸の日系人の子供が、在米朝鮮人と中国人に 壮絶なヘイトスピーチとイジメにあっている現実については言わないのか? 」

これについては、近年におけるネトウヨデマの代表的なものであり、慰安婦問題を巡って、「アメリカに在住する日本人学生」が、現地の韓国人にイジメられるという内容で、ネトウヨ御用達漫画である『嫌韓流』や『日の丸街宣女子』にも登場した有名なネタです。

無論、そのような事実は確認されておらず、ネット世界を席巻したネトウヨたちによる独善的なデマであります。

そして今度は、ヘイトスピーチの矛先が朝鮮学校にも向けられ、本特集を愚弄するタイトルで、超賤学校の生徒達に傷つけられた日本人の子供達は今」(「賤」とは賤民、すなわち「奴隷階級」を表す言葉)という、ネトウヨお得意のお寒いネーム作りに奔走してみたり、登場する女子学生たちに向かって「先祖を恨めよ朝鮮人の餓鬼 」「キチガイだろこいつら」「被害者面すんなよチョンコ(差別用語) 「チョン(同)のガキ=犯罪者予備軍」と差別的罵詈雑言な書き並べ、挙句の果てには「4世になっても真実は見ず言わず可哀想な被害者面だけしながらゴネゴネ寄生虫を続ける」とほざく始末です。


結論となりますが、在特会を含めたこのれらの者どもは、日本という自分たちが「圧倒的有利な環境」に物を言わせて、立場の弱いマイノリティに強圧的態度をする最低の『内弁慶集団』であることは言うまでもない事実でしょう。

しかし、これは私を含めた他の日本人にも共通するもので、民主主義や知性主義の観点から考える以前に、そういう「みっともない行動」は絶対にしてはならないということ、はたまた自分たちが何らかの形で海外の地でそういう立場になったことを想像すれば、ヘイトスピーチは絶対してはいけないものだと気づくはずです。


<参考文献>

・安田浩一著『ネットと愛国(在特会の「闇」を追いかけて)』講談社
・同著『ヘイトスピーチ「愛国者」たちの憎悪と暴力』文春新書