社説Editorials



戦後69年の言葉



祈りと誓いのその先へ




戦争と日本の現在地


国民的合意があったわけではない。合意を取り付けようと説得されたことも、意見を聞かれたこともない。

ごく限られた人たちによる一方的な言葉の読み替えと言い換えと強弁により、戦争をしない国から、戦争ができる国への転換は果たされた。


安倍首相は8月6日の広島、8月9日長崎という日本と人類にとって特別な日の、特別な場所でのあいさつを、昨年の「使い回し」で済ませた。そればかりか、集団的自衛権に納得しないと声をかけた被爆者を「見解の相違です」と突き放した。


見解の相違があるのなら、言葉による説得でそれを埋める努力をするのが、政治家としての作法である。

ところが首相は、特定秘密保護法も集団的自衛権も、決着後に「説明して理解を得る努力をする」という説明を繰り返すだけ。主権者を侮り、それを隠そうともしない。



男性23.9歳。女性37.5歳。敗戦の年の平均寿命(参考値)だ。多大な犠牲を払ってようやく手にしたもろもろがいま、ないがしろにされている。なぜ日本はこのような地点に漂着してしまったのだろうか。


哲学者の鶴見俊輔さんが、敗戦の翌年に発表した論文「言葉のお守り的使用法について」に、手がかりがある。「政治家が意見を具体化して説明することなしに、お守り言葉をほどよくちりばめた演説や作文で人にうったえようとし、民衆が内容を冷静に検討することなしに、お守り言葉のつかいかたのたくみさに順応してゆく習慣がつづくかぎり、何年かの後にまた戦時とおなじようにうやむやな政治が復活する可能性がのこっている」




お守り言葉と政権


お守り言葉とは、社会の権力者が扇動的に用い、民衆が自分を守るために身につける言葉である。

例えば戦中は「国体」「八紘一宇」「翼賛」であり、敗戦後は米国から輸入された「民主」「自由」「デモクラシー」に変わる。


それらを意味がよくわからないまま使う習慣が「お守り的使用法」だ。当初は単なる飾りに過ぎなかったはずの言葉が、頻繁に使われるうちに実力をつけ、最終的には、自分たちの利益に反することでも、「国体」と言われれば黙従する状況が生まれる。言葉のお守り的使用法はしらずしらず、人々を不本意なところに連れ込む。


首相が、「積極的平和主義」を唱え始めた時。意味がよくわからず、きな臭さを感じた人もいただろう。

だが、「平和主義」を正面から批判するのはためらわれ、そうこうしているうちに、首相は外遊先で触れ回り、「各国の理解を得た」と既成事実が積み上がる。果たして「積極的平和主義」は、「武器輸出三原則」を「防衛装備移転三原則」へと転換させる際の理屈となり、集団的自衛権行使容認の閣議決定文には3度出てくる。


美しい国へ。戦後レジームからの脱却。アベノミクス-。

さあ、主権者はこの「お守り言葉政権」と、どう組み合えばいいのだろうか。(要約抜粋)




朝日新聞 オピニオン 第12面12版 2014年(平成26年)8月15日 金曜日




さて、私はここに新たに「反日」という言葉も挿入したいと思います。


今現在、狂騒的な「愛国的文言」に満ち溢れ、最近とくに「他者黙らせる言葉」としての「反日」が乱用され、反証を返さない空虚な疑似言葉として、各々が真に思考を解放して議論することを避け、前述の言葉に「頼り切っている」人も多いではないのでしょうか。


なにかすると、「反日教育をしているから差別されて当然」だの、「反日国家とは国交を断絶すべきだ」という幼稚で感情的な言葉を発する人をネット上でもちらほら見かけます。


いやそもそも、「『反日』とはなんぞや」と問いかけてみると、前記事での-「反日」の淵源- で示した正しい名辞からはおよそかけ離れ、昨今での使用法は本記事での「お守り言葉」としての側面が強いと感じました。人々はその本来の正しい言葉の意味を知らず、もしくは忘れて、反証を正面から問う議論を恐れて、戦前や戦中の「非国民」と同様に、他者を追い出し黙らせ排斥する道具として、「絶対に正しい言葉」と君臨させようと躍起です。



あさはかも哀れかな、「絶対善」や「批判を受けない言葉」などこの世に存在せず、常に論の攻撃に晒されて各自鍛えられて有用性を勝ち取ってゆくものですが、そういうものから逃避した「反知性的な言葉」としての「無敵の言葉」は、同様にして正しい理解や認識がないまま扇情的に使われる「お守り言葉」と通底するものがあり、この言葉を拠り所としてる数々の「反(嫌)韓」「反(嫌)中」本の類は、足元から崩されていくことでしょう。



全ての科学は、自然・社会・人文を含めて「批判」や「論理的耐久力」を備えておくべきですが、そういう学問のあり方を見る意味において、疑似科学にすらなれない「お守り言葉」、それは現在における「反日」を含めて、全ての方々が直視するべき問題であります。



<参考資料>

・朝日新聞 2014年8月15日 金曜日 記事