『紅蓮と桜と白昼夢』 | 愛と幻想の薬物

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病んだ精神を癒やすために、体験を基にし、エッセンスとしてのホラを加えながら『さいはての地』での記憶を辿ります。
妄想、現実、ありがちな経験をもとにした物語です。

 
 
彼女と二人で花を見に行こうと
最初にその公園に訪れたとき
風に舞う花びらの向こうで、故二階建ての古い木造アパートが巨大な火焔(ほむら)に包まれていた。
 
 
桜の花やレンゲ草が芽吹く公園の
穏やかな陽だまりの向かいには、
吹き荒れる黒煙と"熾燬(しき)"なる火炎。
その時、僕らの他には誰も居らず、
消防の鐘の音も、119番も届かなかった。
 
 
春の陽の下で、焼け落ちる家屋と
失われた若いお母さんと赤ちゃんの命。
 
 
 
陽炎のようでいて恐ろしい、
紅蓮と桜の白昼夢。
 
 
 
(注)※『熾燬(しき)』は、「激しく勢いがさかんな炎烈火」という禰彌の「造語」です。