闇に映える腹
部屋にヤモリがでた。
帰って、電気をつけたら、布団のところに妙なものの気配がして
見るとヤモリだった。
きゃああと女の子らしく叫び声をあげてはみたけれど誰も来てくれなかったので
仕方無く父を呼んだ。
素手で掴むかと思いきや父は、
割りばしを持ってきて、それで彼を挟み、窓からほうり出した。
いったいどこから入り込んだのだろう。
わたしの窓の網戸はがたついていて
すき間が開いているからきっとそこから入ったのだろう。
ヤモリはよく見かける。
玄関の戸の外側にへばりついている。
それを家の中から見る。
毎日のように見かけるからうちに住んでいるのだろうけれどどこに住んでるのだろう。
夜見るとぎょっとする。
白い腹をこちらにむけて、じっとしていたり、もぞもぞと動いていたりするのだ。
その白い腹は闇を背によく映える。
それを猫がじっと見ている。
自慢ではないが虫だとか、爬虫類だとかは苦手だ。
だけどヤモリにはちょっとだけ親近感がある。
それは母に「ヤモリは家を守ってくれているのだ」といわれて育ったからだとおもう。
ヤモリを見ると、きまって母に報告する。
「ヤモリだか、イモリだかいたよ。
あれってさ、ヤモリ、イモリ、どっち?」
母の答は決まっている。
それはヤモリだ。
なぜなら、ヤモリは家を守ってくれるのだ。
うちの家にいたのならイモリではないそれはヤモリだ、ヤモリに違いない。
その強引なポジティブ思考に半ばあきれながらも、先程の彼の姿を思い浮かべ、
そうか、あれは、家を、守ってくれてるのか。
と何とはなしに私は安心する。
「じゃあさ、ヤモリとイモリとどう違うの?」
「それは、わからん」
父によると、水の中にいるのがイモリだそうな。
さすが田舎で育った人は違う。
母による「家を守ってくれるヤモリ様、ああありがたや説」を半分鵜呑みにして育ったおかげで
玄関や、壁をつたうヤモリを見つけても、ちょっと気持ち悪いけど、然程嫌悪は感じない。
それどころか、感謝の念すら湧いてきたりする。
有難う守宮さん、今日もうちを守ってくれて。
それなのに、部屋で見つけた彼はただの爬虫類で
気味がわるくて、早くどこかへ行ってほしかった。
彼はたぶん、ただ、そこにいるだけなのに
ただ生きているだけなのに
勝手に崇拝したり
気味悪がったり
人は現金だ。
じゃなくて私が現金だ。
ヤモリさんもう部屋には出ないでね。
そういえば昼にはあまり見ない。