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午後8時。
いつまで待っても出てこないから、先に夕飯を頂いた。
本当に、今日は長丁場みたいだ。
「……原因は…何だろう」
ソファーに身を沈めて、真剣に考える。
もしかして、昨日会う約束を反古にしたから、怒ってるのかな…。
私は、いつから機嫌が悪いのか、思い出してみることにした。
昨日急に仕事が入って、約束が無理になったと連絡を入れた時は。
仕方ないよ、頑張って、といつもと変わらない返事だったはず。
次に連絡したのは、休日出勤したメンバーでご飯を食べた後で。
「あっ!」
私はソファーから立ち上がった。寝室の前に向かうと、ドアを叩いた。
「秋夜くん、ごめん!昨日…!」
私の言葉を遮るように、寝室のドアが開いた。
冷たい目をした秋夜くんがいた。
「秋夜くん…」
「あんたはさ、俺を何だと思ってるわけ?」
「ごめん…」
そうだ。昨日、仕事が終わったら電話してって言われて、でも実際電話したのは、仕事が終わってからだいぶ後で。オマケに、それ自体を忘れてた、なんて。
秋夜くんに嫌われても仕方ない…。
「何でそんな顔するの」
「…だって、私のこと嫌いになったよね」
「…はぁ」
秋夜くんの顔を見れなくて、顔を俯けると、秋夜くんの溜息が聞こえて、それから何故か抱き締められた。
「…嫌いになるわけないじゃん」
「……え?」
「嫌いになるんだったら、もっと前になってる」
「……それって」
「あんたが俺を蔑ろにするのは今に始まったことじゃないし」
「……ごめんなさい」
反論も出来ません。
頬に当たる秋夜くんの温もりに、心の底から安心する。
「俺もちょっとやり過ぎたから」
「……うん」
「ちょっと本当に反省してるの?」
「してるよ!」
「ふーん……じゃあ俺の言うこと、何でも聞けるよね?」
「えっ?そ、それは…」
「いいよね?」
「…………はい」
頷くしかなかった。
私の返事を聞くや否や、秋夜くんは私を軽々と抱き上げた。そのまま向かったのは、バスルーム。
私に逃げないように釘を刺すと、バスルームへ消える。
「…ほんとに入るの…?」
「当たり前でしょ。別に初めてじゃないんだから、恥ずかしがる必要ないよ」
「いや、だって!」
お風呂単体…っていうのは初めてだよ…とも言えず、秋夜くんは服を脱ぎ出す。
…何かちょっと目のやり場に困る。
いつまで経っても動かない私に、秋夜くんが意地悪く笑う。
「何、脱がせてほしいの?」
「ち、違います!」
「仕方ないな…」
秋夜くんが近付いてきて、トップスの裾から手を入れてくる。
触れるか触れないかのギリギリを這う手に、私の息が少しずつ上がっていく。
「もう降参?」
「しゅ…っやくん…っ」
涙目になってるだろう私の目尻をペロリと秋夜くんの下が舐め上げる。それだけでゾクリとした感覚が背筋を上る。
「もっと、俺を教えてあげるよ」
ニヤリと弧を描くように上がった口許を私は絶対忘れられない。
***
「一、連絡はマメにする。必ず、絶対に」
「はい、次」
「一、仕事が終わったら、まっすぐ帰る…?」
「はい」
「一、土日は必ず泊まりにくるこ、
と…?」
「…ちょっと、さっきから何で疑問形?納得してないわけ?」
「そりゃそうだよ!こんなの横暴!」
何故か私は床に正座させられて、秋夜くんが書いた約束事を音読させられている。
しかも内容がえげつない。
「…反省してないわけ?」
「反省はしてるけど……」
「けど、なに?」
束縛しすぎだ…とは言えず、モゴモゴしていると、秋夜くんが私の傍らに膝をついた。
そっと頬に手を添えられる。優しく撫でられて、私は秋夜くんを見つめた。
「じゃあさ、いっそのこと桜庭になる?」
「――は?」
「…………その返事、傷付くんだけど」
「あ、ごめん」
いきなり言われて混乱してる。
"桜庭になる"って、つまりそういうこと、だよね…。
「……今度さ、大きな仕事が入ってくるんだ」
「ほんとに!?よかったね!!」
秋夜くんの夢が少しずつ叶ってく。凄く嬉しい。
嬉しさが溢れて、私の頬も緩む。
「だから、さ。…そろそろ名実共に、俺のものになろうよ」
「…………」
「だから、何で黙るのさ」
「いや、急すぎて頭が付いていかない…」
「頭が付いてかなくていいから、答えてよ。『はい』なの?『イエス』なの?」
「ええっ、てか、両方一緒じゃない」
「なに?断るの?」
「………断らないけど」
「じゃあ返事」
「……はい、よろしくお願いします」
半ば無理矢理、私は返事をした。それに笑う秋夜くんが、本当に嬉しそうで、やっぱり私は彼に弱いな、と苦笑するのだった。
勿論、私も嬉しいに決まってるけど。多分彼にはお見通しだと思うから、私からは言わないでおく。
fin.
→あとがき!