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須賀くんへの気持ちに気付いても、私は特に何もしなかった。
想いを打ち明けるなんて、今更な感じがして、それに、相変わらず私が一番須賀くんに近かったから、安心していた。
須賀くんが時々目で△△さんを追ってはいたけど、それだけだったし、△△さんと話してるのを見たのも、あれっきりだったから。

「ちょっと、大ニュース!!」

この言葉で、私は自分の甘さに反吐が出た。

「須賀くんが△△さんに告白して、付き合ってるんだって!」
「う…そ…」
「嘘じゃないって!んで、もう凄いのよ、他にも…」
「…ごめん、トイレ行ってくる」

友達の言葉を遮って、私は席を立つ。
廊下に出ると、向こうの方から噂の須賀くんと△△さんが歩いてきてて、私は目を逸らした。
私の中に何も感情がなければ、二人の姿を見ても何も思わなかったかもしれない。寧ろ、付き合ってる雰囲気はほとんどない気がした。
けど、須賀くんの表情がいつもと微妙に違って…いつも近くで見ていたから分かる、小さな変化。
私は唇を噛んで、二人に背を向けた。

…どう足掻いても、二人の間に入る隙はなかった。





***





私がいた位置には、△△さんが代わりにいた。正確には、私よりも彼に近い位置だ。
何度想いを断ち切ろうとしても、彼を見ると、燻ってしまう。
気付いたら、もう、一年もずっと片想いしていた。
相変わらず、須賀くんと△△さんの距離はもどかしい感じで、それでも、少しずつ近付いてる距離に、私の心は小さく悲鳴を上げていた。

…もう、踏ん切りをつけないといけない。

私が入る隙はなかったけど、持て余す想いを発散させないといけないところまできていた。

そして、ちょうど2月。
バレンタインデーの季節。
私はこの日に、自分の想いを託すことにした。
一生懸命作ったトリュフに想いを詰めて、丁寧にラッピングした。
きっと、須賀くんにはチョコが殺到するから、紛れてしまったら意味がないと思って、比較的落ち着いて渡せそうな放課後を時間に選んだ。
放課後、もし捕まらなかったら、それはそれで諦めようと、そう思った。

「おはよう」
「おはよー!凄いよね、須賀くんと桜庭くん」
「ほんとだね。人気者だね」

何気ない会話を友達と交わし、須賀くんをそっと見た。
困った顔をして、それでもチョコを受け取ってるのは、彼の優しさなのだろうか。
そうこうしている内に、△△さんが登校してきて、桜庭くんが△△さんに、可哀想とか何とか呟いてるのを耳が拾った。
△△さんは、ちょっと困った顔をしつつも、須賀くんの気持ちを知ってるから、とにっこり笑った。

「……はぁ」

知らず知らず息が漏れる。
△△さんの言葉に照れる須賀くんは、もう私の知らない人だ。
私は膝の上に置いた手を握り締めた。
泣き出したくなる気持ちを、静かに押し殺した。





***





放課後。
予想した通り、須賀くんはチャイムが鳴ると同時に、姿を消した。
あれだけチョコ攻撃をされたら、逃げたくなるのも分かる。
私はゆっくりと席を立ち、鞄をそっと握り締めた。
彼が行くところなんて、察しはついている。

「失礼します」

ノックを二回して、生徒会室の扉を開ける。
△△さんを待っていたのだろう、落胆する表情が一瞬現れて、私の胸を抉った。

「藤沢、どうした?」
「うん。…何か、こうやって話すの久しぶりだなと思って」
「……何か用か?」

わざとはぐらかすように答えると、単刀直入に用件を問うてくる。
そんな彼に、小さく笑うと、私は鞄の中からラッピングした箱を取り出した。

「バレンタインデーのチョコ、あげる」
「……ああ」

須賀くんが私に近付いてくる。
私が描いたシナリオ通り。
須賀くんの手が、箱に触れた瞬間を狙って、私は彼のネクタイを強引に握り、引き寄せるように引っ張る。
傾く身体に、そっと自身を滑り込ませ、彼の薄い唇に自分の想いを重ねる。

時間が止まればいいのに、と思った。

物音が何もしなくて、ただただ無音で、一瞬だけでも須賀くんの瞳に、私が映っていることに、満足した。

扉の向こうで、小さな音がした。
はっきりとは見えなかったけど、翻るスカートを目の端に捉えて、△△さんが来てたんだなと思った。
慌てた声が聞こえ、サッと青ざめた須賀くんが扉を勢いよく開けたけど、すでに△△さんの姿は見えなかった。

「…私、謝らないから。それだけは言っておくね」
「藤沢…」

トリュフの入ったチョコを机の上に置いて、須賀くんの横を通り抜けた。

私を見ていた彼の瞳を、私は一生忘れないと思う。



苦いだけの想いは、儚く溶けて、無に返る――永遠に。






fin.






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