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バレンタインに愛を込めて
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いつもは立たないキッチンも、この日は別。
たくさんの有り余る想いを、たった一つのチョコに込めて。
奮闘して作るスイーツは、きっと美味しいはず。
「よし!できた!」
目の前には、直径8cmのフォンダンショコラが並んでいる。
見た目は合格。
一つを手に取り、一口齧る。
とろっとチョコレートが口に広がる。
「美味しい!」
初めて作ったにしては、上出来な味だ。
粗熱を取るために、ケーキクーラーに並べる。
ラッピングの袋を用意すると、私はメッセージカードに言葉を綴っていく。
「……よし。これであとは、ラッピングだけ!」
付き合って、初めてのバレンタイン。
お互いの気持ちはもう知ってるけど、改めて気持ちを伝えるのはいいことだと思う。
「喜んでくれるかなぁ…須賀くん」
彼のことを想い、私は小さく微笑んだ。
***
綺麗にラッピング出来たし、準備は万端!!
いつ渡そうかなぁと考えながら、登校すると、教室の入口に人集りが。
「…?」
近寄ってみると、皆甘い匂いをさせて、手には紙袋。
バレンタインのチョコをかぁ。
誰にだろうと思いながら、人をぬって、教室に入ると、皆のお目当てが分かった。
桜庭くんと須賀くん。
一言ずつ何か言って、女の子達はチョコを押し付けるかのように置いていく。
「おはよう、◯◯」
「おはよ。二人ともすごいね…」
須賀くんに挨拶して、机の上のチョコを見る。
既製品と手作り、半々くらいが乗っていた。
二人は少々げんなりと言った表情で、私を見て、私は苦笑した。
予鈴が鳴って、一旦はチョコの行列は途絶える。
でも、この分だと放課後まで続きそうな勢い。
「ほんと、迷惑だよね」
「桜庭」
「何?怖い顔しちゃってさ。嬉しいわけ?こんなもの貰って」
「桜庭」
「あー、はいはい。ほんと、須賀はデリカシーがないよね。あんたも可哀想」
「え?」
急に私に振られて、間抜けな受け答えをしてしまう。
桜庭くんは呆れた顔をして、大きく溜息をついた。
「普通、彼氏がこんなにチョコ貰ってたら妬かない?」
「え、えーと…」
そんな気持ちは一切抱かなかったから、返答に困ってしまう。
嫌なものなんだろうけど、何かあの行列を見ると、この机の上にあるのは義理っぽいかなと思うのだ。
私なら、あんな大勢の前で、本命を渡したりしない。
「私は、須賀くんの気持ち知ってるから」
「……へぇ」
知ってるから、大丈夫。
そう伝えると、桜庭くんは須賀くんの方を見やり、ゴチソウサマと何故か片言で、無言で机の上のチョコを大きめの紙袋に入れると、そのまま机に突っ伏した。
「…どうしたんだろ?…ねぇ、須賀…須賀くん?」
須賀くんを見ると、片手で顔を覆い、明後日の方向を向いている。
少し見えた頬は赤かった。
「どうしたの?」
「…何でもない」
更に追及しようとしたけど、先生が来てしまって叶わない。
疑問に思いながらも、私は渋々席に着いたのだった。
***
それから、案の定、須賀くんは授業の合間の休憩時間やお昼休みも、女の子達に囲まれていた。
…まぁ、正直面白くはないけど、チョコをあげる女の子の気持ちは、少しは分かるし、そのことをとやかくは言えなかった。
そして、放課後。
帰ろう、と須賀くんに声を掛けようと、席を見ると、すでにいなかった。
どこに行ったのか、首を傾げていると、咲坂くんが声を掛けてくる。
「◯◯、須賀知らねぇか?」
「私も知らないの。今から探しに行くところ……あ!」
携帯がメールを受信する。
それは須賀くんからで、チョコから逃れるために、生徒会室に避難している、といった内容だった。
「生徒会室にいるって」
咲坂くんと、生徒会室に向かう。
扉の前で、ノックをしようとした時、ガタガタッと机か椅子か、何かが慌ただしく動く音がして、私と咲坂くんはそっと中を覗きみた。
「……う、そ……」
掠れた声が出る。
サーッと血の気が引いて、私は踵を返して、バタバタと廊下を走った。後ろから、咲坂くんの声と、扉が開く音がした。
――見たくなかったよ。
須賀くんが誰かとキスしてる、ところなんて。
はぁ…と荒い息をそのままに、走ってやってきた屋上のフェンスにもたれかかる。
さっき見たシーンが脳裏に浮かぶ。
須賀くんのネクタイを掴んで、唇を寄せる女の子。
須賀くんは被害者なのだろうけど。
「……何か、悔しい…」
「……オマエ、こういう時だけ素早いのな」
顔を上げると、咲坂くんの困った顔があった。
私はふいっと顔を逸らして、手元の鞄から紙袋を出す。
「……あげる」
「お、おい!」
戸惑う咲坂くんに袋を押し付けて、私は足早に屋上を出る。
立ち止まったら、泣いてしまいそうで、私は全速力で走った。
最悪のバレンタイン、だった。