愛を耕すひと(2023) | 浮遊家具

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映画 大好き また 始めたいと思います。黄斑変性、SLE、双極性障害で仕事ができなくなり、一人、家の中にいる自分、置き場所のない浮遊して漂う家具のよう。ただ、時間だけが進んだ、治癒は進み現在に至る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あらすじ

18世紀デンマーク。貧窮にあえぐ退役軍人のルドヴィ・ケーレン大尉は、貴族の称号を懸け、ひとり荒野の開拓に名乗りを上げる。しかし、それを知った有力者フレデリック・デ・シンケルが自らの勢力が衰退することを恐れ、ありとあらゆる手段でケーレンを追い払おうと躍起になる。襲い掛かる自然の脅威とデ・シンケルからの非道な仕打ちに抗いながら、彼のもとから逃げ出した使用人の女性アン・バーバラや家族に見捨てられた少女アンマイ・ムスとの出会いにより、ケーレンの頑なに閉ざした心に変化が芽生えてゆく…。そして、それぞれが見つけた希望とは―。






上映日:2025年02月14日製作国・地域:デンマークスウェーデンドイツ上映時間:127分


監督

ニコライ・アーセル

脚本

ニコライ・アーセル

アナス・トマス・イェンセン

原作

イダ・ジェッセン

出演者

マッツ・ミケルセン

アマンダ・コリン

シモン・ベンネビヤーグ

メリナ・ハグバーグ

クリスティン・クヤトゥ・ソープ

グスタフ・リン

ソーレン・マリン






人は何かを築こうとするとき、最初に試されるのは才能ではない。

諦めない覚悟である。

『愛を耕すひと』を観ていると、そのことを何度も思い知らされる。

この映画には派手な奇跡はない。

努力がすぐ報われることもない。

主人公ルドヴィ・ケーレンの前に広がるのは、誰も耕せなかった荒野だけだ。

石だらけの大地。

吹きつける冷たい風。

誰も成功を信じない土地。

それでも彼は、一人で鍬を握り続ける。

18世紀のデンマーク。

退役軍人ケーレンは、荒れ果てた大地を開拓し、貴族の称号を得ようとする。

それは身分の低い男が、自分の人生を切り開くための挑戦だった。

しかし彼の前に立ちはだかるのは自然だけではない。

土地を支配する権力者。

身分制度。

嫉妬と欲望。

人間が作り上げた壁の方が、荒野よりもはるかに手強い。

この映画を観ていて印象に残るのは、その静けさである。

多くを説明しない。

感情を大げさに語らない。

だからこそ、風の音や土を踏みしめる足音が、言葉以上に登場人物の心を伝えてくる。

広大な荒野を映し出す映像も見事だ。

その美しさは観光地のような美しさではない。

人間の小ささを突きつける美しさである。

果てしない風景の中に立つケーレンの姿は、あまりにも孤独だ。

けれど、その孤独があるからこそ、一歩前へ進む姿が強く胸へ響く。

私は最初、この映画は「開拓」の物語だと思っていた。

荒野を切り開き、夢を叶える男の物語。

だが観終わった今では、少し違う。

本当に耕されていたのは土地ではなく、人の心だった。

ケーレンは成功だけを見て生きている。

人と距離を置き、自分の力だけを信じている。

しかし人生は計画どおりには進まない。

行き場を失ったアン・バーバラ。

家族を失った少女アンマイ・ムス。

彼女たちとの出会いは、彼の人生を少しずつ変えていく。

誰かと食卓を囲むこと。

誰かの帰りを待つこと。

名前を呼ばれること。

それまで彼が手に入れようとしていた称号よりも、そうした日常の方が人を豊かにするのだと、映画は静かに語りかけてくる。

だから、この作品には劇的な言葉はいらない。

小さな視線。

ためらう仕草。

ほんのわずかな表情の変化。

マッツ・ミケルセンは、それだけでケーレンという男の心の揺れを表現してしまう。

何も語らない時間が、これほど雄弁な映画はそう多くない。

『愛を耕すひと』という題名も、観終わる頃には違う意味を持ち始める。

耕すとは、土を掘り返すことだけではない。

固く閉ざされた心を少しずつ柔らかくし、新しいものが育つ場所をつくることでもある。

その変化には時間がかかる。

すぐに花は咲かない。

何度も失敗し、それでも鍬を下ろし続けるしかない。

人生も同じなのだろう。

私は、この映画を観て「成功」とは何なのかを考えた。

地位を得ることだろうか。

財産を築くことだろうか。

この映画が最後に示す答えは、とても静かだ。

人は何を持っているかではなく、誰と生きたかによって人生の豊かさが決まる。

その当たり前のことを、荒野に吹く風は最後まで変わらず教え続けていた。

『愛を耕すひと』は歴史劇でありながら、現代を生きる私たちへの物語でもある。

急いで結果を求める時代だからこそ、この映画が描く「時間をかけて育てること」の尊さは、いっそう深く胸に響く。

鍬を下ろしたその日に実りは訪れない。

それでも土を耕す人だけが、いつか春の景色を見ることができる。

この映画は、その静かで力強い真実を、最後までぶれることなく描き切っていた。