もうだいぶ前のこと。
御岳に通い始めた頃、「ここに課題は無いのかな?まあ無理か…」
なんてたまに眺めていたのが日陰岩のハング面、ど真ん中のライン。

当時の自分にとって、この岩は大きすぎてとても登る対象ではなかったし、当時は下地が小川になっていて、水分をたっぷり含んだ周囲の土が沼のようになっていたのをよく覚えている。

それから何年か過ぎ、あの頃よりは多少強くなった頃、ふと気になって日陰岩の例のラインを覗いてみた。

すると以前には感じ取れなかったホールドやムーブが見え、その可能性にワクワクした反面、トライせずとも分かってしまう岩質の脆さにがっかりした。


わざわざ苔むしたリップを掃除して挑戦したところで、ホールドが欠けまくって登れなくなるだろうと想像すると、とても重い腰が上がらなかった。




が、そんなある日、



明らかにそのラインのリップから上が綺麗さっぱりに掃除されていることに気がついた。

「わざわざ苔むしたリップを掃除してこの脆いラインに挑戦した人間」がいたのだ。

(のちにhamaduraさんであると判明)


聞くと,やはりホールドが吹っ飛んでしまい、それ以来放置しているとのことだった。

そして、ありがたいことに僕へ、リベンジでの完登を期待してくださった。



2022年10月

単純な僕はモチベーションが上がり、登る気持ちで1人で御岳へ向かった。

改めて "登る目" でラインを見てみると、やはり脆さが気になり、眺めれば眺めるほどに魅力的には見えなくなっていき、結局一度もトライすることなく岩場を後にした…。

(お前のモチベ、そんなもんだったんかいっていう)



その一月後、話を聞いた友人フィッシャーマンが、ヘルシークライマーことNMIくんと例のラインをトライしに行ったそうな。

彼らは僕と違ってちゃんとトライし、しっかり手応えを感じて帰ってきた。


「確かにかなり脆くてホールドも壊れるけど、壊れた中からだんだん硬いホールドが出てくる」

との感想をフィッシャーマンから聞いた。



その発掘みたいなクライミングをリップまで続ければ課題に成る…?

いや、途中で完全にホールドが壊れて終了するかも…。

上部で吹っ飛んだら痛い思いをするのでは…。

ロープでいったん強度確認して…。

いや…。


と色々考えたが

たぶん短くまとめると

「本腰入れて挑戦したもののぶっ壊れて消滅したら嫌だな」ってのが当時の僕の気持ちだったんだと思う。


しかし、彼らのトライ動画を見せてもらったら

そんな思いはどっかに行き、俄然トライしたくなった。


人がトライしている様子、ホールドにチョークが乗っている様子がとても魅力的に映り、とたんに僕の登攀意欲を掻き立てた。

モチベが上がったり下がったり、面倒な奴、本当に。



2022年12月24日

今度こそ本当に登る気持ちで御岳へ向かった。

なんせ今回はフィッシャーマンと一緒だからね。

そして幸運にも、その日はたまたま強い友人クライマーが何人か御岳に来ていることをSNSで知り、すぐさま彼らに呼びかけてみると、全員日陰岩に集まってくれた。

(フィッシャーマン・龍さん・迅さん・鹿ちゃん)







ホールドが欠けながらも登り進めると、たしかに脆い中から硬いホールドが出現し始めるのが分かる。

1人が躓いた場面でも、次の1人が一手進め…その次を他の1人が進め…

と代わりばんこに攻略していく様子がRPGゲームのようで楽しかった。

なにより内容がおもしろい。

緊張感を感じつつ、ぐいぐい登らせてくれる強度感。


ついに核心であろう部分に到達し、

にっちもさっちも行かなくなったところでその日は終了。

右手で悪いカチホールドを握って、リップ手前のガバ (であろうと言われているホールド) へ出る部分が解決できなかった。

踏んだホールドがことごとく欠けて、とても怖かったのが大きな理由。


リップまであと2手か3手のところで終了したことはとても悔しかったが、

「そのうち誰かが登ってくれるでしょう!脆くて怖いからしばらく触らんでいいや」

と諦められるくらいにはストレスのかかるポイントだった。


しかし家に帰るなり、とたんに猛烈な悔しさが押し寄せてきた。

『誰かが登る』じゃないだろう!

『自分』が登れよ!!!!!!!

って。


もうすっごいやる気になっちゃったよね。

漫画の主人公みたいに目バッキバキだったと思う。

すぐに大晦日にリベンジしに行くことを決めた。


ありがたいことに、前回一緒にトライした方々も何人か来てくれるとのことで、やる気十分。

(龍さん・迅さん・キュアたん・キュアたん妻・bishop・五頭くん)



2022年12月31日

嶺の夕でしっかりアップをし、プロジェクトをトライ。

前回の到達点まではすぐに到達した。

疲れもなくフレッシュな状態だったため周りを見渡す余裕があり、右手で使える新たなカチを見つけることができた。


今まで握っていたカチよりもだいぶ良く、問題だったガバ (とされているホールド) 取りへ左手を出すことも容易にできた。

しかし踏んでいたホールドが剥離しフォール。



ガバとされていたホールドは「まあまあなホールド」だと分かる。

すぐに龍さんも、まあまあなホールドをキャッチ。

リップを取ろうとした際に、左足がオートで岩にトウフックしてしまい身体が剥がされてしまった。


マントルへの懸念はあるものの、両者・あるいはどちらかは今日登れるだろうという状況になり、とてもワクワクした。


しかし、常にホールド破損を視野に入れたハイボールのトライは非常にストレスがかかり、肉体的にも精神的にもヨレは早かった。


前腕の張り具合や鼓動を平常に近づけないと登れないだろうなと思い、はやる気持ちをコントロールしながら、和気藹々に徹して過ごす中でタイミングを探るのは個人的にしんどかった。


そして完登時のトライ。

まあまあなホールド取りをする際の右手カチで少々のパンプを感じたが押し切る。

リップを止め、そこからは未調査のホールド達。

嫌ぁ〜なクロスムーブでリップをマッチ。


リップはガバだったので落ち着いてホールドを探せたが、見つけたホールドはどれも枯葉が覆っており、だいぶ嫌だった。

(地面から見た時に枯葉の存在は確認していたが掃除せずに行ける妙な自信があった)


怖さというよりは、絶対に登りきりたい気持ちで死ぬほど叫んだ。

わかりやすく言うと「ワニに金玉噛まれた人が出す声」くらいの叫び。





クソほど叫んだけど、頭真っ白ってわけでもなく

「どんだけ叫んでんだよ(笑」

と心の中で笑うくらいには冷静な部分もあった。

(動画見返したら、とてもそんなふうには見えなかったけど)


そして直後に龍さんも完登。

…全く叫んでないの。

俺めっちゃ必死だったんだけどな。

さすがです。


初登争いなんて考えるほど余裕はなかったけれど、

トライの順番が逆だったら初登は龍さんだったと思う。もしかして密かに譲ってくれていたのかも。

とても綺麗な登りでした!



課題名やグレードは皆で色々考えたけど最終的には

【嶺上開花(リンシャンカイホウ) / 二段+】

と自分で決めた。


嶺の夕 にならって、嶺の上に花が咲く様子を名前につけた。

麻雀の役のひとつらしく、運の良い役だそうな。

幾たびも欠けながら丁度いいホールドが偶然残ったこのラインにはピッタリな名前だと思う。

(※麻雀はやったことありません)


グレードは御岳のグレード感に合わせたつもり。

そこにリスクヘッジ的な要素も絡めました。

手で使ったホールドは、ほぼほぼ安定したけれど油断は禁物。

もしトライする人がいれば気をつけてください。


※ホールドの状態から未登との判断をしましたが既登であれば訂正します。


おしまい。

長かったー。