私が初演時から担当しておりました『ヤマトタケル』の「走水」の場面の浪後見。

さすがに実際に後見として中に入っておりましたのは、もうずいぶんと前。

名題になったあたりで、卒業させて頂きましたが、その後にも演出助手として

この場面に関わり続けて参りました。

 

今回は、演出助手も卒業しておりますが、テクニカルや舞台稽古の時に一応、

監修という形でアドバイスをさせて頂いておりました。


この弟姫が入水する「走水」の場面の浪後見、あの波布の中には役者、スタッフも入れると

実に40人以上の人が携わっております。

波布を引っ張ったり揺らしたり畳の波布を表したり。


私が初めて浪布の場面を見たのは実に50年ほど前、まだ『ヤマトタケル』は

出来てはおりません

『加賀見山再岩藤』の鳥居又助が奥方梅の方を殺害して浅野川に逃げる場面でした。

実に鮮やかな川の中での追手との立ち回り、
私は人が操っているとは知らず機械で動かしているもんだと思い込んでおりました。


その後、猿翁旦那の舞台に自身も出演するようになり波の中に入って、

「なるほど、こうやっているのか!」とわかりました。

その応用を『ヤマトタケル』でも使う事になり、私が波長になりました(笑)


なぜ、機械でなく人海戦術で浪を操るのかと申しますと、波の出入りがあり動きが複雑な上に

短時間で次の場面に移らなくてはなりません

大掛かりな機械を出し入れする暇もなくそんな装置を置くスペースも舞台袖にはありません

結局、超アナログな人の手によって操った方が手っ取り早いのです(笑)
そして、何よりもスムーズなのです。

ですから今みな様がご覧になられておりますのは 50年前と同じやり方、

おそらくは江戸時代からの技法でしょうか?

照明や音響など装置はどんどん新しくなりハイテクな時代でも

波布に関しては超アナログなやり方がスーパー歌舞伎には一番適している証明ですね。


少し裏話になりますが、今回の浪後見のメンバーは初めての人ばかり。

12年前の時には辛うじて数人の経験者が居たのですが、今回は皆無でした。

 

ただ、布を動かしているだけといえばそうなのですが、やはりテクニックは要ります。

お稽古の時に、久しぶりに、本当に久しぶりに波の中に入ってお手本の動きをしました

 

そこで我らが猿弥ちゃんのひと言

「さすが、慣れてる! みなさ~ん 70歳が波やってま~す」

 

・・・なんでやねん・・・(笑)




『ヤマトタケル』の走水の場面、水面下に居る40数人の浪後見やスタッフにも拍手をお願い致します。