先日、『傾城反魂香』のおもだかや型と音羽屋型の演出の違いについて書かせて頂きました。

今月の夜の部に松緑さんの狐忠信で『義経千本桜 四の切』が上演されております。
この演目ほどおもだかや型と音羽屋型の演出の違いが如実に表れている演目はありませんが、
どうもなかなかこの演目に触れる事ができませんでした。
でももうどこかで区切りをつけなくては行けませんね。


と云う訳で今日は『四の切』のおもだかや型と音羽屋型の演出の違いを
書かせて頂きます。

狐忠信が初音の鼓に纏わる両親の鼓の皮に思い寄せるコンセプトには違いはございません

大きな違いは後半、狐忠信が一旦去った後、おもだかや型では書院から

本物の佐藤忠信が障子を開けて顔を見せます。そして障子を閉じた後 

呼び返された狐忠信が欄間から降りて来て静御前と義経の前に

姿を現しますが、音羽屋型ではこれはありません

この演出は猿翁旦那が独自に産み出された演出なのです。

そして義経より鼓を賜り手にした後、この館を狙う荒法師を花道から引き入れますが
おもだかや型では薙刀をかかえた荒法師が6人。

これに対して音羽屋型は3人です。
そしてこの3人の荒法師が手にしているのは、薙刀ではなく草鞋をつばにした竹の棒です。

これは引き入れられた時にすでに狐に化かされているので刀が竹の棒に
変わっている事を表しております。

音羽屋型は狐忠信との派手な立ち回りの動きはありませんが、逆に化かされた状態で
3人だけで動きっぱなしなのでこれは非常に疲れるのです。

 

そして最後の最大の違いは狐忠信が拝領した鼓を手におもだかや型は宙乗りで

客席へ引っ込みますが音羽屋型は桜の木に登ったところで幕となります。

 

もっとも巡業など宙乗りの設備のない処ではおもだかや型も

桜の木のところで幕となる事がございます。

 

ですから宙乗りのない演出では私の狐忠信の吹替の出番もないですね(笑)

まだまだ細かい処での演出の違いはあるのですが、それはまた次の機会に致しましょう。

両方の『四の切』をご覧になられその違いが判られた方は

そのご感想もお寄せくださいませ。

ただおもだかや型の『四の切』は、当分の間見る事ができないかも知れないのは

非常に残念です。