今回の「傾城反魂香」のお芝居はおもだかや型でも

普段はあまりやらない演出で上演されております。


もちろん2幕の舞踊の大津絵の場面もあまり上演されませんが、
実は1幕のお芝居の場面も大きく演出が変わっているのです。


どこかわかりますか?
将監の妻が出ずに、下女になりますのは、以前に書きましたので、これではありません

結構大きな演出の違いなのですが、案外気がつかなかった方も多いかも知れません


今回、又平夫婦は幕が開くとすぐに花道から登場致します。
ですが、本来は登場しません

まず最初に登場しますのは、私たち百姓なのです。
花道から大勢で登場して、虎を追いかけて来て藪の所で追い出そうと
土佐将監のうちの前で騒いでおります。


そこへあまり騒がしいので修理之助が襖から表まで出て参ります。
虎の事を話しているうちに、奥から土佐将監(北の方の場合は一緒に)が出て来て戒めます。

そこへ虎が登場してかき消す件になります。

今回は北の方が登場しないので、将監が直接修理之助に印可の筆を渡しますが、
北の方がいる場合は硯箱の墨を摺りながら硯と筆の入った箱を修理之助渡し、
その印可の筆で龍の文字を書き虎を消します。

ですから虎をかき消す場面には本来、又平夫婦はいないのです。
しかし今回はあえて又平夫婦を登場させて百姓の前で弟弟子
修理之助に負かされた事を印象付けております。


普段でしたら百姓が花道に入ると、修理之助の噂話を
途中ですれ違い様に聞いた事になっております。

それから又平夫婦の登場となるのです。

前半だけでも普段の演出とはこれだけ違います。

気がつかれてましたか?
どうして今回この演出になっているのか?

本来の演出では、「主役は最初には出ない」という歌舞伎の常道を踏襲しておりますが、
あえてこれを外したことで、悲劇性は高まっているでしょうか??

弟弟子に負かされた、それがよりによって衆人の前で。
それがさらに悲劇的に見える様に 意図されたものでは無いかと思います。


実はこれは初代猿翁さんの型で、現猿翁旦那もこの型はなさっておられないようです。
私も実際に見たのは今回が初めてです。

猿翁旦那は逆に「やはり先に出るより、音羽屋型(百姓の後に出る演出)の方が
出やすいね、」とあえてお家の型を外され音羽屋型の演出でなさっていたそうです。
お家の型にとらわれない、猿翁旦那らしいですね(笑)

今回は中車さんが初演と云う事もあってあえて初代猿翁さんのおもだかや型で
又平をなさっているそうです。

私もこの百姓は、実はあまり数はした事がありませんが、それでも出て行って又平夫婦が
舞台に居りますのは、初めてです。
ちょっと変な気分です(笑)


お話の内容は修理之助が名前を貰った事を見ていたか、聞きかじったかの違いくらいで、
筋は全く違っていないのですが、出て来る順番も、その場に居る人物も違います。

おそらく、みな様も何度もご覧になっているこの演目。
この違いに気づかれていた方は どのくらいおられるでしょうか。
ちょっと興味があります。

 

明日はこの演出の違いによって生じたちょっとした疑問点を書かせて頂きます。