おもだかや版『當世流小栗判官』の初演は1983年7月ですから今から39年前。

これまで今月を入れて10回の上演記録がございますが、猿翁旦那が勤められたのが7回、
猿之助さんが2回目、右團次(右近)さん 喜多村緑郎(段治郎)さんの
ダブルでの上演が1回でした。

まだ照手姫が福助(児太郎時代)さんの時のお話です。

舞台稽古中、宙乗りの馬の二人乗りの時、舞台上では遊行上人と同行の僧が見送っております。

私もその同行の僧の中に居りましたが3階鳥屋口に入ってから福助さんが
「安全ベルト、外れてた~」と叫ばれた事がありました。

舞台稽古とはいえ、その声は舞台上の私たちにも届きまして、こちらもびっくり!

もちろん、無事だったのは当然のことですが、降りるまでわからなかったからいい様なもので
途中で気がつかれたら、ものすごく怖かった事でしょうね。
それを考えますとゾッと致します。


また猿翁旦那の7回の中で最大のアクシデントと云えるのが鬼鹿毛(馬)からの落馬。

舞台上で碁盤乗りの前に鬼鹿毛に跨った猿翁旦那が馬から落ちたのです・・・
と云ってもこれは事故がありまして馬の中で馬体と馬の足の役者さんを支えている
柔道着の様な生地の太い紐が切れたのです。

その時はこんなのが切れるか~?とも思いましたが長年の蓄積で紐が
弱くなっていたのでしょうね。

しばらくは馬の足の人が馬体を手で支えていたのですが、
重さに耐えきれず馬体そのものが横に回転してしまったので
そのまま猿翁旦那も上敷の上に落ちてしまいました。

当然、途中で幕が引かれ中断となってしまいましたが、
私も横山の家臣のひとりとして舞台に居りましたので、
壊れた馬を家臣みんなで隠し 猿翁旦那は後ろ向きで待機となり
一旦、幕となりました。


そして幕内で馬の事情が分かり急遽 予備の馬に切り替えられ
幕が開いて同じ場面からお芝居は再開されました。

ここで素晴らしいのが猿翁旦那の機転と云うか対応力、馬上に於いて
「一旦は振り落とされしが、今再びの馬術の手並み お目にかけん
また仕損じなば お許しあれ~。」的な台詞を云われ お客様から大きな拍手を
頂いておられました。

そして碁盤乗りはいつもに増しての大拍手、アクシデントを見事
見せ場に変えられました(笑)


毎日の舞台上では正直 何が起こるか分かりません 
アクシデントは起きないに限りますが、もし起きた時に慌てず 
お芝居を続けて行くには何をどうするかが大事ですね(笑)



今回の浪七住家の場の畳の件も毎日手直しがされております。

舞台稽古の時は用意されていた畳が薄く、歩くとへこみそうなので

初日には畳が少しごつくなりました。

となると今度は重くて浪七の猿之助さんも私の四郎蔵もなかなか上がらず
薄くて軽くするためには裏に合板を貼る事になりました。

そして真ん中に支えの糸があったのですが、これが照手姫の登場の時に
うしろの帯に引っ掛かりました。

次の日には真ん中をやめて左右に短い支えの糸を張る事になりました。

畳がちょうどいい重さになり糸の場所も変えられ 
お芝居をやりやすくして行くためには数日かかった訳です。

こう云った何でもない事でも毎日の試行錯誤が繰り返されているんです。
毎日同じ舞台のようで、進化していく舞台ですね。

千穐楽まで何事もなく進むことを祈ります。