さあ いよいよ初演時、初日の感動の第1位の発表です・・・。


みな様もう予想がついておられる方が多いとは思います(笑)

それは2015年(平成27年)新橋演舞場の10月7日初日の
スーパー歌舞伎II『ワンピース』です。

そもそもが不安でした。
私は、この舞台化をされるまで『ワンピース』という名前を知ってはおりましたが、
漫画を読んだこともなければ、アニメを見た事もありませんでした。
とても人気のある、ものすごい作品だと云う事はなんとなくわかりましたが、
それがどんな作品なのか・・・

私だけではなく、参加しているうちの半分くらいが、この作品を知らなかったでしょうか。
もちろん、猿之助さんも。

そんな人気の作品、一体どう舞台にするのか?


人気のある作品には、本当にたくさんのファンの方が居られます。
その方たちがどんな風に見られるのか、そして私たちの様に全く物語を知らない
歌舞伎のファンの方は どう見られるのか。
そもそも「ワンピース」が歌舞伎と融合するのか?

そのあたりは、本当に不安でありました。


例えば、私自身もなのですが、好きな小説のシリーズなどが映画化されましたら、
どうしてもイメージが違ったり、なんだかなと思ってしまう事があります。

ましてやアニメで実際に動いている作品があるものですから、声のイメージもあります
登場人物に思い入れのある方も多かったと思います。

不安しかない中で、お稽古前に急いで漫画を買い、一応最初の方と
舞台化される部分は読みました。
お稽古場にもひとそろい揃っておりましたので、皆必死に勉強しつつ(笑)
お稽古に食らいついておりました。

また、世間の声も決して温かいものではありませんでした(笑)
温かいものもあったとは思いますが、否定的な意見も多く聞こえて参りました。



そんな中、お稽古が始まったわけです。

この作品、お稽古場の時には何をやっているのか全く分かりませんでした。
すべてが舞台処理でしかできないからです。

何をやってるんだろう、どうなるんだろう、これ面白いのかな


というお稽古場でのお稽古。



大がかりなわりにはお稽古期間も短く 舞台に行ってからの舞台稽古も
わりと通常通りでした。

不安な気持ちをいつもよりもたくさん持っていたにも関わらず、
なぜか思った以上にスムーズ? の様に出来上がっていく舞台、お稽古。


舞台稽古は、大小合わせて何度も行われました。

実はこの時珍しく、私は来られる限りの最大限、家人に
舞台稽古を見に来てほしい旨お願いしました。

コロナ以前は、舞台好きな家人ですので、舞台稽古は可能な限り
見に来てくれましたが、だいたい本番通りの時くらいです。

この『ワンピース』はとにかく見てほしかったのです。
見て、何か言ってほしかった。
辛口でも辛辣でも、何か欲しかったのです。前向きになれる、前に進める何かを。

「うん、面白いと思うよ」と云われても、どこか安心する事が出来ません

私は奴隷市場の支配人ディスコで、幕開きにすぐにまず私が登場致します。
これはつまり、私から物語が始まるのです。

この扮装につきましても、実は舞台稽古の時点でも 自分の中では納得!という
モノではありませんでしたので、「どうしたらいい??」と助言を(笑)

漫画のディスコはわりとシンプルで歌舞伎と云う舞台には
合わないような雰囲気でした。

その結果、「もっと異様な、異質な雰囲気が強くてもいいんとちゃう??」
と云うことで、片眼鏡とチェーンを付けるアイデアをくれたのも家人でした。

その場で小道具さんに頼み、すぐに用意してもらいました。
そしてメイクも歌舞伎的な異様な感じにしてみました。

とにかく、何がと云う訳ではなく、何もかもが不安でした。
全く結果が見えない、不安だらけな船出でした。




そんな一人きりの初演の初日。
舞台の上には私しかおりません

真っ暗な舞台と、客席の興奮を隔てているのは、たった一枚の薄いスクリーン。
(初演時は薄い幕だけでした)


音楽が鳴り、幕に絵が映り、物語が進行します。
そして、盛り上がり最高潮で、私の登場!


これが緊張しないではおられるでしょうか??

2位の『ヤマトタケル』の時も初日の緊張はありましたが、この『ワンピース』は
幕開きのまず私にかかっている部分があります。

「幕開きよろしくね」という風な猿之助さんからの言葉もありました
それまでに幕開きに登場はよくありましたが、こんな緊張の登場はありえません


幕が飛び、第一声。「シャボンディ諸島 奴隷市場にようこそ~!」

幕が無くなりましたので、お客様はすぐそこに居られます。
お客様の雰囲気がすぐにわかるところにいるはずなのですが、
この初日の時はお客様の呼吸がまるでつかめません

今までの作品の様な手ごたえが全くないのです。


ある意味、シーンとしており真っ暗な客席の中にお客様は居られるのか?
まだ舞台稽古の続きじゃないか? みたいな空気が私の中では 流れておりました。

お客様もきっと何が始まるのか? 状態だったのでしょうか?
そんな中お芝居は進み・・・、

やがて麦わらの一味が花道から登場、そしてルフィ(猿之助さん)が登場して
居並びの名乗りになると、一人一人に歓声が上がり プロジェクションマッピングを駆使した
海軍との立ち回りになると拍手が巻き上がりました。

興奮は2幕のインペルダウンの戦いや「TETOTE」の歌に合わせてのルフィの宙乗り
3幕のエースの死までつづき、カーテンコールはすごい盛り上がりの中の大拍手でした。



お稽古中、これうけるのかな? 面白いのかな?そんな毎日。

SNSなどでは「ワンピースが歌舞伎で出来る訳がない」とか
かなり厳しい指摘もされておりましたが、この初日の大うけですべて認識がひっくり返り
SNSでも絶賛する声が多く聞かれるようになりました。


2日目からの幕開きは期待感満々のお客様の呼吸が感じられ 
支配人ディスコを演じていても楽しくて仕方ありませんでした(笑)

おそらく、これは私の心の持ち方により、同じように初日のお客様も2日目のお客様も
同じように反応してくださっていたのかも知れません。
私の緊張が全く客席の反応を感じない様になっていたのかも知れません


ですが、こんなに怖かった初日はありません
こんなに怖かった幕開きはありません

そして、こんなに感動した初日もありません

『ワンピース』ファンの人は麦わらの一味や海軍のコスプレの姿で観劇に見えましたね。
そして大の大人がエースの死には涙を流して泣いておられました(笑)

『ワンピース』を全くご存じのなかった歌舞伎ファンの方も、興味を持って漫画を読んだり、
お子さんやお孫さんと観劇されたと云う事も聞きました。
後日「ワンピース歌舞伎」という言葉が生まれましたのも この初日の成功があったから。

『ワンピース』の初日のカーテンコールの大拍手は今でも忘れません

この後、アニメの色んな作品が歌舞伎化されたのはまさに『ワンピース』の功績だと思います。

私の中での初演時、初日の感動第1位は間違いなくこの『ワンピース』です。