お客様が歌舞伎座に入られてからすぐに どこへ行かれるでしょうか?

 

お土産売り場? 

 

ですが現在の歌舞伎座は旧歌舞伎座ほどたくさんのお店がありません
チケットを持っておられない方も利用できる名所として、地下の木挽町広場が出来ました。

また、現在は1階のお店は、場内からでは利用できないそうですね。
最近知り 聞いて驚きました。今の状況だからでしょうか?


現在開演前の入場は40分前からですが、密を避けるため、飲食をしないために
随分と状況も変わっておりますので、あまり早い時間には入場されないでしょうか?


本来、お芝居の楽しみ方の一つが早い時間に入場され 筋書きを買い
客席にお座りになって 今月の出演者の顔写真を見たり 中日以後なら
舞台写真をご覧になったり、あらすじを読む・・・と これは善し悪しですね。

先に読まれない方がいい場合もあります(笑)


ただ30分前に客席に座っておられると緞帳奥から黒御簾の音楽が聞こえて参ります。

すでにご存じの方も多いと思いますが、これは「着到」と申しまして楽屋や客席に
開演30分前です、とお知らせする音楽です。

 

普段でしたら開場時間ですので、聞くことのできる方は少ないでしょうか?
客席では まだ着席されていない方が多いと思います。

一方、私たち楽屋では、だいたいはこの時間からお化粧をされる方が多いですね。
もちろんせっかちの人やぎりぎりの人も多いのでこの限りではありませんが・・・。

 

そしてそのあとに拍子木の柝の音がひとつ打たれます。
開演30分前の、お芝居が始まると云うワクワク感を醸し出してくれます。

一方、楽屋で私は「あ~時間や~」って感じでしょうか?(笑)


また、15分前には楽屋で柝が二つ打たれます。これは客席で聞こえるかな?

これは「二丁」と申しまして開演時に舞台に板付いている役者さんたちが、
お化粧も終わり 衣裳を着はじめて つづいてかつらを被る時間帯です。

 

次に5分前には柝が3つ打たれます。

これは「まわり」と云いまして本来、舞台裏で作っていた幕開きの場面の大道具を
回り舞台を使って正面に回してくる時間帯だからこう呼ばれます。

もっとも今回の『加賀見山再岩藤』の大乗寺の場面は舞台正面で作っておりますので
必ずしも回り舞台を使う訳ではありませんが・・・。


そしてお芝居によりますが、今月の第1部はこの時間帯に緞帳から
定式幕(三色の幕)に幕の変更が行われます。

さらに役者さんたちは舞台上にスタンバイをお願いしますとの合図です。

この「まわり」は舞台にも聞こえる様に打たれますので客席でも聞こえるかも・・・。

 

そして幕が開くまでの間に 柝の音が時々チョンチョンと聞けると思います。

これは「きざみ」と申します。

まだスタンバイしていない人は急いでください・・・ですね(笑)


それで時間が来ますとまず、柝が二つ打たれ 黒御簾音楽がスタートして、柝が段々ときざんで行かれ

幕が開き終わると最後の柝の音が打たれ これを止め柝と云います。 

ここからお芝居が始まるわけですね。


柝を打つのは狂言作者さんと云いまして、そのお芝居を担当している歌舞伎の舞台監督さんです。

歌舞伎以外の劇場では単に30分前 15分前 5分前のアナウンスとブザーですが、
柝の音は時間と空間の経過を表しており 私たちの舞台生活には欠かせないものなのです。


普段の歌舞伎座でしたら どうしても幕が開く直前までザワザワとした雰囲気で
今から芝居が始まると云うワクワクとした気持ちがありますので、
なかなか全ての音は聞こえないかも知れません

ですが、現在の静寂の歌舞伎座でしたら、きっと耳を澄ませていれば 色々な音が
聞こえて来ると思います。

 

ちなみに幕の開く直前に「お待ちどおさまでした、お願いします」という言葉も
聞こえるかと思います。

これは頭取さんが、かけている言葉です。
もうずっと、それこそ何十年も毎日発せられている言葉なのですが、
今の上演形態になりまして、初めて聞いたと云う方もおられるかもしれませんね。

みな様、感染に十分ご注意いただき、観劇に来られました際には、ぜひ今しか聞けない
開幕前の音に耳を傾けてみてください。。