昨日、円山応挙の『幽霊には足がない』と云う事でブログを書かせて頂きました。

 

これは一昨日の読売新聞の日曜版の記事から抜粋して書かせて頂いたのですが、
その記事にはもう一つ、別の記事もあったのです。

 

円山応挙の『幽霊画』は怪談話で有名な明治の落語家三遊亭圓朝のコレクションだったそうです。
圓朝は怪談百物語のために幽霊画を集めていたそうです。

 

その圓朝ですが面白いのは応挙の『幽霊には足がない』と云う事に着目して、そこから発想を飛ばして

『怪談牡丹灯篭』を創作したのだそうです。

 

幽霊となった娘・お露がお供を連れて夜ごと墓地から恋人新三郎に会いに来る。
その駒下駄の音をカラン、コロンと表現して評判になったそうです。

 

つまり、『幽霊には足がない』と云う応挙が作った常識を覆し 幽霊が足音を立ててやって来る
その逆転の発想から『怪談牡丹灯篭』は生まれた訳です。

 

面白いですね。そしてやはりなんだか怖いですね、音もなくす~っといった感じに 幽霊が急に出てくるのではなく
徐々に近づいてくる・・・。それが音として聞こえと云う聴覚的な効果。

足がない、それが常識・・・となっていたのを覆す。

耳からの伝わり方を重視される 噺家さんならではの発想かも知れません。

 

 

 

これは今までの歌舞伎の歴史にも云える事です。

 

例えば歌舞伎の早替わり。

猿翁旦那が『加賀見山再岩藤』で『お染の七役』同様 七役早替わりを取り入れられました。

さらに七役以上の『慙紅葉汗顔見勢 伊達の十役』では十役に取り組まれました。

 

ここで猿翁旦那は『お染の七役』での大詰めのお染と久松の糸立ての早替わりを
高尾太夫を殺した絹川与右衛門と、それを目撃した土手の道哲に置き換えられ
あえて花道七三でお客様の目の前で瞬時の早替りを見せられ お客様をうならせました。

 

舞台から花道に逃げ込む与右衛門、花道で道哲とすれ違い お客さまの目はそのまま
与右衛門を追いかけ揚幕へ入る姿を確認します。

 

そして舞台に目をやると 舞台には土手の道哲に早替わった猿翁旦那の姿。

 

お染久松の早替わりは単に二人が入れ替わると云う手法の面白さを追求した演出ですが
与右衛門と道哲の早替りはお芝居の緊迫したここ一番での演出、

しかも、早替わりには裏があると 皆が思っている中で、あえて花道と云う裏も見える所で

堂々と目の前での早替わり。

これも常識を覆した逆転の発想でした。

 

 

その他、石川五右衛門や天竺徳兵衛の宙乗りのつづら抜け。

初めて御覧になられたお客様は、つづらのあんな中に人が入っていると誰が予想しますでしょうか?


つづらが割れたと思ったらいきなりそれを背負っている形になる発想、すごいですよね。

歌舞伎はこれからもどんどんみな様の発想の逆を行く事でしょう(笑)

 

こう考えますと、やはり歌舞伎におきましては視覚的な事を重視しての発想がどんどん生まれて

行っていたのでしょうか。

 

 


最後に『怪談牡丹灯篭』の結末を・・・。

 

幽霊に魅入られた新三郎を助けようと旅の修験者がお札を授け これを柱や障子に張り
期限が来るまで、夜明けまでは決して出てはならぬと告げます。

 

お露は中へ入れず毎夜 周りを回りながら 恨めしげに悲しげに呼びかけてきます。 

そして最終日「終わったよ、朝になったよ・・・」と つい騙されて新三郎は外に・・・(おお!怖~!)