来月の8月歌舞伎座公演の第2部に「豊志賀の死」と云う演目がございます。
これは『真景累ヶ淵(しんけいかさねがふち)』と云う通し狂言の中の一場面です。

豊志賀を七之助さん 弟子の新吉を鶴松さん 噺家さん蝶を勘九郎さんと云う配役。

 

 

もともとは落語家の三遊亭円朝さんの怪談噺が歌舞伎化されたものです。
円朝さんは怪談噺を得意とされておりました。


旗本の深見新左エ門は鍼医者の宗悦から借金をしておりましたが、返済のもつれから
その宗悦を殺し その亡霊にとりつかれます。 

宗悦と思って(すでに自分が殺したはずですが・・・)誤って妻を切り殺してしまいます。 

それが原因で、新左エ門は乱心して非業の死を遂げます。

今でもありそうなお話(笑)・・・笑い事ではありませんが・・・

 

 

その殺された宗悦の姉娘が富本節(常磐津から独立したもの)の師匠、豊志賀です。

お互いの親の因縁を知らずに 殺した側の新左エ門の次男で弟子の新吉とは わりない仲となってしまいます。

 

つまり親の宗悦殺しが発端でその怨念は娘や息子にも影響して来るという
怪談物独特の因縁話です。

 


今回の上演は姉娘、豊志賀の件りだけですが ちなみに新左エ門の長男、新五郎も
宗悦の妹娘お園と別の物語で因縁話が絡み合ってまいります。

ぜひ通しの上演もして頂きたいものです。

 

 

日本の怪談噺はこの因縁因果が物語の重要な要素でして、外国のお化けや怪物等々、 
例えばフランケンシュタイン ドラキュラ 狼男などは誰の目にも見えますが、
日本の幽霊はその原因を持つ当事者 つまり殺した人やその協力者だけに祟るのであって
周りの人にはその存在が分かりません

 

『四谷怪談』でも民谷伊右衛門にしかお岩の亡霊は見えず また、『牡丹灯篭』も
美女のお露の姿は新三郎にしか見えず 周りの人は新三郎が骸骨を抱いている姿しか見えないのです。

ここに日本の幽霊が怖い所以がありますね。

つまり悪い事をしていなければ 何ら幽霊に怯える必要がありません(笑)

 

私、一度この『真景累ヶ淵』に出して頂いた事がありまして 殺された宗悦が運ばれてくる長屋の住人でした。

姉娘豊志賀と妹娘のお園は玉三郎さん 兄の新五郎が我當さん 弟の新吉が孝夫(仁左衛門)さん
私が23歳の1975年のやはり暑い夏の8月の京都南座でした。

 

昼の部が『真景累ヶ淵』の通し狂言と『道行恋苧環』で 夜の部が玉三郎さん 孝夫さんの『鳴神』
13世仁左衛門さん 秀太郎さんの『新口村』と松島屋ご一門と玉三郎さんで『九十九折』でした。


この『真景累ヶ淵』は通しとして上演されたのは私が出演したこの時が最後でして、
その後は「豊志賀の死」の件だけが抜粋されて上演されております。

来月の歌舞伎座、第1部『加賀見山再岩藤』をご覧になられて熱くなられた後、
第2部『豊志賀の死』で 涼しくなられては如何でしょうか?(笑)

 

 

それよりも・・・この時の上演が もう50年近く前。

まだ猿之助さんも生まれていないときの上演だとは・・・ついこの間と思ったら そんなに昔か!

 

こっちの方が涼しさを超えて ゾッと寒くなる気がします。