今月、歌舞伎座第1部での猿之助さんの演目『蜘蛛の糸宿直噺(くものいとおよづめばなし)』は
所謂変化ものと云われておりまして、主人公が人間ではありません 
勤めておられるのはもちろん人間の猿之助さんですが・・・(笑)


歌舞伎には変化物と呼ばれる演目が少なくありません

鬼神、鬼女、幽霊、お化け 何々の精 等々・・・、これに蜘蛛も入って参ります。

以前にも書きましたが蜘蛛が登場する演目と云う事は 実は当時の身分制度が
深く関わってまいります。

 

中央政権に対して地方の土着の住人は中央の不条理な法によって服従を迫られ
それに反発した一族は征伐される。

そんな時代が長い間続いたのでしょうね、歴史的なそんな出来事を
土着の住人を土蜘蛛と云う表現に置き換えてお芝居が作られました。

 

土着の人を征伐した人は英雄となり 歴史にも名が残っております。

歌舞伎にもよく登場する源頼光その家来の四天王 渡辺綱 坂田金時 
卜部安武 碓井貞光 そしてひとり武者の平井保昌はその最たる人だったのでしょう。

 

そして征伐された側のお芝居上での名は、例えば平(相馬)良門など、
この人は伝説上の人物で 実は妖怪? または反乱を起こした平将門の子ともされております。

実在の人物の名を上げるにはお芝居とはいえ やはり気が引けたのでしょうか?(笑)

 


今月の演目の『蜘蛛の糸宿直噺』に登場する変化もやはり蜘蛛の精。

 

歌舞伎に蜘蛛が登場する演目はこれ以外にざっと上げただけでも、
舞踊で新歌舞伎十八番の『土蜘(つちぐも)』『来宵蜘蛛絲(くべきよいくものいとすじ)』
『戻橋背御摂(もどりばしせなにごひいき)』 『蜘蛛の拍子舞(くものひょうしまい)』
『蜘蛛絲梓弦(くものいとあずさのゆみはり)』等々。


そして通し狂言のお芝居としては『四天王楓江戸粧(してんのうもみじのえどぐま)』

『御贔屓繋馬(ごひきつなぎうま)』等々。

 

先の舞踊としての蜘蛛の演目はこの通し狂言の大喜利所作事としての
舞踊が独立して上演されたものです。

 

 

歌舞伎は変化が登場して早変わりをお客様にご覧頂き 最後には強い武将が登場して
変化はねじ伏せられてしまう。

 

なんとも単純明快ですが 歌舞伎としてこれほど勧善懲悪で豪華絢爛な舞台もないでしょうね(笑)

 

そう云った先の深い関りを感じながらご覧になるもよし、
また何も考えずに舞台上のきらびやかさだけをご覧になるもよし、
歌舞伎を楽しまれるのに、制限や規則はありません(笑)