踊りの振りを覚える、簡単なようで これがなかなか難しいものです。

 

今日もご宗家で間狂言の踊りの稽古がありました。
それも一応 時間差ですが今日は5人全員が揃うと云う事で・・・。


踊りのお稽古の場合 私たち名題から名題下の必ず通るオーソドックスな舞踊、
例えば『道成寺』の所化や『伊勢音頭』の並びの踊りなどは、一応目にあります。

ですからお役を頂いた時にあらかじめ、自分である程度お稽古をしてから
その日に臨むことが出来ます。

 

また初めての振りを渡して下さるものでも、曲が耳にあれば動きだけを
あてはめて行けばいいのですからわりと楽です。


ですが今回のように振りも曲も新しく ましてや一人ずつ別の振りがある場合は、
短い時間で覚えるのは大変な事なのです。


そこで利用するのが文明の利器と申しますか、今ではICレコーダーやビデオカメラ。


ビデオカメラも今ではかなり小さくなり 音と映像で踊りの振りや お芝居の動きが
そのままの姿で撮られるようになったのは、昔から比べるとすごい進歩です。


そして今ではわざわざビデオカメラを持って行かなくても
スマホで音と映像が撮れるのは便利この上ありません(笑)

普段持ちのものですから これはかなり役に立ちます。


ですからビデオ同様 録画さえしておけば その場で振りを覚えていなくても 
お稽古場を退出して あとから自宅で覚え直す事ができます。


その時のお稽古で振りを完璧に覚えていないと 本格的なお稽古が開始になった時、
二進も三進も行かず 他の方に迷惑をかけてしまう結果となりますね。


私は踊りの振りを文字に起こして書いても 次の日に見たら 自分の書いた動きが
絶望的にさっぱりわかりません(笑)


現在はお稽古時間も決まっておりますので 覚えないよりは、と
お稽古場で振りを録画させて頂く事もお許し頂いております。

 


よく歌舞伎の技は盗め 昔は見て覚えろ と云われてましたが、短い振りでも大変なのに
例えば『京鹿子娘道成寺』の白拍子花子のような長い踊りは
ビデオもない時代 どのようにして覚えられたのでしょうか?


見て覚える、以前は私たちが空いている時間に 客席に回って見る事も可能でしたが
今はそれも許可されません 
お稽古の時以外 客席で見るにはもちろん私たちでも入場料が必要です。

 

先人たちがお稽古場で その場で踊りの振りをひたすら 
なんとか覚えようとする姿勢には 本当に頭が下がる思いが致します。


と、書いていたのですが今日 猿弥さんが来てまず第一にご宗家に云った事が
「すいません 先日のお稽古の時 録音の音がほとんど入ってなくて 
振りが全く分からないんですよ。」

ご宗家も驚きながらもこれには爆笑。

 

「・・・猿弥さん・・・」 と云いながら 私たちのお稽古の前に「ちょっとゴメンね。」と
ご宗家に抜き稽古をお願いしておりました。

私は「おいおい!」と思いながら「大丈夫かいな?」と 心配しておりましたら
「こんな事 やってましたよね?」と云いながらも 
なんと ほとんどの振りを曲通りに覚えておりました。

 

「え? 録画じゃなくて聞こえない録音を聞きながら 猿弥さんそこまで、覚えたの?」と
私は唖然としました。

私ならもし 録画や録音がされてなかったら もう白紙状態で真っ青ですね(笑)  

猿弥さんはやはり凄い と思いました。

 

そしてその後 壱太郎さんが来られて 間狂言の5人がやっと揃いました。
しかし 笑三郎さんと壱太郎さんは振り渡しは今日が初めて・・・。


笑三郎さんは私たちが行く前に ご宗家から少し先に
抜き稽古をして頂いていたそうですが 壱太郎さんは私たち4人のお稽古が
進んでいる最中に初めて参加されました。


と 云う事でご宗家は初めての壱太郎さんを 私たちのお稽古が終わった後に
別に一人での抜き稽古のおつもりだった様です。


「でも ちょうど揃っているから (私たちに)少し待っててくれる。 
あとで5人全員で揃えたいから。」と おっしゃいました。


私が2日間かかって覚えた踊りを「大丈夫かな?」と 思いましたが
なんと30分後には壱太郎さん 全部覚えて私たちと揃えました。


これには驚いた! まして私より踊りの手が多いのに
覚えるののなんと早い事でしょうか?


猿弥さんも凄いですが 壱太郎さんはもっと凄い!


文明の利器も便利ですが、天性と云うか才能と云うか・・・。


もう私は この人たちの才能には付いて行けません(笑)

 

 

後から猿弥さんに「先日の振り渡しのお稽古の様子 スマホで録画してあったから
云ってくれたら画像 送ったのに・・・」と

そしたら「え? 撮ってあったの? 私(猿弥さん)のとこの振りも?」

「え~ そしたらこんなに必死にならなくてもよかったのに~」と
云いながらも あんまり必要なかったみたいです(笑)


先人にもまして その天性と才能と ひたすらな? お二人の姿勢も 決して忘れてはいけないと

痛感して 今日のお稽古を終えて帰って来ました。

 

天性も才能も自信もない私は ただひたすら 稽古をするしかありません(笑)