ステイホームでず~っと、うちにいる事が多い生活ですが、今は仕方のない事。

諦めではなく、悟りの境地に近くなって来ておりますが・・・(笑)


今は亡き、父冠十郎が、一度歌舞伎の世界を離れ 再び歌舞伎に復帰する迄には
およそ20年くらいの間隔がございました。


その間は所属の会社はいくつか 渡り歩いておりましたが、宝塚新芸座から

東宝系の商業演劇によく出演しておりました。

 

しかし商業演劇と云うのは 基本的には 安定している歌舞伎の舞台とは違い

個人に対してのお呼びがかからないと出番がありません
ちょうど今の私のように・・・(笑)

 


母と離婚した父は、私が小学校から中学に上がる頃には、けっこうお休みが多くなりました。

そんな時に祖母が亡くなり 私は父と二人暮らしに。

ですから父はず~っとうちに居て 何をする訳でもなく・・・。

 

出る舞台はない、私と同じように絵を描く趣味はありましたが、

それを始終している訳ではありません

 

その空いた時間。時間は山のようにあるのに する事がない

近くに居るのは 私だけ・・・

こうなると、餌食?標的?(笑)になりますのは、もちろん私です。

 

私への踊りの稽古や台詞の稽古などを もうそれはそれは熱心に行いました。  

大体毎日欠かさずに 2時間ほど・・・私はこれが嫌で嫌で・・・(笑)

 

でも2人暮らしですし まだせいぜい中学くらいですから逃げ出す事も出来ません。

歌舞伎のお稽古ならまだいいのですが、父の創作舞踊や創作芝居、

あげくの果てには スーダラ節まで・・・。

 

父が仕事で東京などへ行った時は やれ解放されたと ホッとしました(笑)

こればっかりは体験しないとわかりませんよね。

 

仕事のない父との二人暮らしは、子供の頃の私にとっては、なかなか大変なものでした。

 

ひとつだけ幸いだったのは、父の夕飯晩酌時に 昔の芸談や歴史の裏話をしてくれたことでしょうか?

なにしろ話し相手は私しかおりません(笑)

ま、私もその手の話は嫌いではなかったので よく聞いておりました。

 

昨日のブログの「鉢の木」の話も そんな時に聞きかじっておりました。

父はわりと話をするのが上手く 役者ですから身振り手振りも入り
芸談も色んな話を聞きました。

 

「芝居で大事なのは、その役どころ その性根」と云う様な事を聞き
こんな話をしてくれました。

 

今書き残しておかないと、おそらく埋もれてしまいますので、聞きかじりで

しかも 50年前の事ですので、多少の記憶違いもあるかも知れませんが、

その辺りはお許しを。

 

 

名人中車と云われた七代目市川中車がまだ、九代目團十郎の門人だったころの話。

若い時代で厳しき指導されていた時のお話です。
團十郎の『鬼一法眼三略巻』の菊畑の段 もちろん鬼一法眼は團十郎。

 

三略の巻を奪おうと鬼一邸に潜入した奴に扮した虎蔵(実は義経)が五代目菊五郎、
中車は虎蔵の仲間の奴の知恵内(実は鬼一の弟 鬼三太)に扮した義経の家来です。
鬼一と鬼三太は、お互い兄弟であることは知りません

 

と云ったお話です。

 

鬼一法眼に虎蔵が主人の義経ではないかと云う疑いを抱き、
知恵内に虎蔵を杖で殴れと云います。

まあ、勧進帳のパターンですね。

 

仕方なく殴ろうと杖を振り上げる時 毎日、團十郎から後ろで

「まずいなあ~」「下手だなあ~」「だいこ(大根)だなあ~」と 呟かれていました(笑)

 

中車は居ても立ってもいられず、團十郎に聞きに行くのですが、
「自分で考えろ!」の一点張り・・・。

 

中車はどうにもわからず、虎蔵役の五代目菊五郎の所へ行き、苦情を訴えますが、
五代目は「俺は後ろを向いているから わからねえが、おめえ肘が上がっているのじゃないか? 
主人を殴る意志がないのに殴ろうとするなら 肘は上がらないはずだ・・・」と、

 

次の日にその場面になった時、團十郎は「ん?」と うなったそうです。

そして演目が終わって中車が團十郎の楽屋にご挨拶に行った時
「五代目に聞いたな!」と ひと言。

 

芸と云うものは わかる人にはわかると云うエピソード。

後の七代目中車の修業時代の話です。
こんな芸談も父からよく聞いておりました(笑)

 

父が誰かから聞いたのか、もしくは本に載っているのを読んで話していたのかは

全くわかりませんが、いろんな話を聞きましたね。

ちょっとご披露できそうにないネタも多数。

 


あの頃の父の年齢を 私はもうはるかに越えておりますが、
うちに居ても芸談を語る相手は家人だけ・・・(笑)

しかも、踊りのお稽古ならぬ、電子ピアノのダメ出しを受けている始末(笑)

あの頃の父は私が居て幸せだったんでしょうね、と思う昨今です(笑)

 


☆ さて、ここでお知らせです。

 

明後日の11日(木)無観客で収録されその後、配信された南座版『オグリ』が
衛星劇場で初放送されます。

 

時間はPM4時から7時15分まで。 再放送は26日(金)です。

 

見られる環境の方は どうかお見逃しなく・・・。