歌舞伎座の８月花形歌舞伎も、あとわずかとなりましたね。
なんとか千穐楽まで無事に上演してほしいものです。
１０月の大阪松竹座 愛之助さん他の『Goemon 石川五右衛門』は
全公演中止となったそうです、残念ですね。
ですが、見る方も演じる方も、万全の体制で楽しんで観劇できる時に
きっと再演してくれると思います。
私も３月南座公演が中止になり、２１日に帰京して２２日、
化粧前やら京都に持って行った荷物の整理に 歌舞伎座を訪れて以来、
５ヶ月にもわたって歌舞伎座はおろか 銀座までも行っておりません
地下鉄にも５ヶ月乗っていない記録が更新中です（笑）
一体いつまで続くのか、こうなったら乗らないでがんばってみよう！と
なんだか 不思議なチャレンジになっております（笑）
ここで少し心配と云うより どうしようもない事なのですが、
３月の帰京した時点では 私も休演がこんなに長引くとは
考えてもいませんでした、
ですからお化粧道具などは、歌舞伎座の倉庫に
入れっぱなしになっております。
今現在、出演者以外の歌舞伎座楽屋訪問は禁止されております。
私も今度いつ、歌舞伎座へ行く事が出来るのかも不明です。
半世紀を越えます役者人生。
子役時代などを除きまして、役者と云うものを職業にして以来、
こんなにお化粧をしなかったのは 初めての事です。
と云う事は、お化粧道具などこんなに長時間 置きっぱなしにした事も
もちろんありませんでした。
白粉はおそらくカビが生え、鬢付けや羽二重なども油が回ってしまって
使い物にならないだろうと思います。
かつらの下に張る羽二重は、本来新品の時に生地全部に鬢付けを
熱して溶かしたものを敷き、それに青帯と云って髪の毛を剃った色の部分を作り
周りは赤との粉と白粉で地肌の色を付け、毎日舞台に出る前に
慣らして地肌の色と合わせていきます。
毎日使うからこそ 地肌の色に合わせやすくなり 羽二重が柔くなっていくのです。
最初は布ですので、平面。
それを頭のカタチに沿わせていくのですから、最初はどうにもこうにも
違和感があります。
使っているうちに、汗とオイルが染みこみ、柔らかさが出て参ります。
ところが、悲しい事に 羽二重が地肌に馴染んで来て 一番使いやすくなった頃に
ビリッと破れます（笑）
これはお約束のような事ですが、いわば消耗品の一つですので、
仕方ありません
白粉も千穐楽から次の初日までの短期間の不使用は問題ありませんが
長期保存も見込んだうえでの対応をさせておく必要があります。
それでも、せいぜい１か月くらいしか持ちません
今度いつになるかも知れませんが、私が出演する機会があれば
ほとんどの舞台化粧品を新品で揃えなくてはならないですね（笑）
普段の公演中でも、かなりの化粧品代がかかります。
それこそ、家人の言葉を借りると
「私の数倍の化粧品代使ってるなあ～あれ？桁が違うか？」
だそうです。
もちろん 新品に揃えるのは問題ないのですが、それがまた
顔や肌に馴染んで来るまでには時間がかかります。
毎日公演して、役者が舞台に出ていると云う流れがストップしてしまうと
色んな事に支障をきたしますね。
今、一番怖いのは、歌舞伎座に行く事が出来る時が来て、
化粧前のカバンを開ける事（笑）
一体どんな状態になっているのか・・・想像したくありませんが、
非常に怖いですね。
役者だけではなく飲食店などのお店 商売の方々、経済経営の流れを
一旦ストップすると もう一度稼働した気には
今まで以上の負荷がかかってしまいます。
もちろん、一定数が売れ続けていた舞台化粧のお店なども、
私たちが 全く買わなくなってしまいましたので、
こちらも大変だと思います。
お願いです、なんとか、舞台が出来る日まで 製造を続けて頂きたいと
心から思います。
そのうち、ドバっとまとめて買いますので。
果たして再稼働して元の流れに戻すのには
どのくらいの期間が必要でしょうか？
『鈴ヶ森』の劇中 幡随院長兵衛が白井権八に
江戸に来たら訪ねて来い、と云う台詞の中に
「弱え奴ならよけて通し 強え奴なら向こう面 韋駄天が革羽織を着て
鬼鹿毛に乗って来ようとも ビクともするものじゃ～ごぜやせん
憚りながら侠客（たてし）の端くれ 阿波座烏は難波潟 藪鶯は京育ち
吉原雀を羽がい（はげえ）につけ 江戸で男と立てられた 男の中の男一匹、
いつでも訪ねてごぜえやし 陰膳据えて 待っておりやすぁ～。」
と云う名セリフ。
私には歌舞伎座が
「木挽町で芝居の小屋と立てられた 歌舞伎の中の大舞台
いつでも訪ねてごぜえやし 化粧台出して 待っておりやすぁ～。」と
長兵衛に見えます（笑）
え？ 私の白井権八では年取り過ぎですか・・・？（笑）
でも新品で 早くお化粧道具を揃え 歌舞伎座や他のお稽古場に
立てる日を指折数えて待っております。