今月の歌舞伎座『本朝白雪姫譚話』

 

喋っている言葉は、ほぼ現代語ですので、特にイヤホンガイドなどでの

説明がなくても おそらく みな様 何を言っているのかは お分かりになられると

思いますが、中には ちょっと意味を分かっていないと なんのこっちゃ?の

台詞(言葉)も いくつか出て参りますでしょうか?

 

 

ここでその言葉を ひとつふたつご紹介したいと思います。

 

まず私 横雲の局が花道に於いて奥方 野分の方(児太郎さん)と
一緒に登場致します。


その時に奥方に向かい

「産後の肥立ちもまだ納まらぬお体 そのように≪お拾い≫ 遊ばしては お身の障り」

と 申します。


『お拾い』・・・とは? 

 

皆さま あまりお耳にされない言葉かと思いますが、
これは、「歩く」と云う意味の尊敬語です。

つまり目上の人が 歩いたり 散歩したりした時に対して
使われる言葉なのです。


余談ですが、豊臣秀吉の子 秀頼は、秀吉がかなりの年になってから生まれた子なので
健康になるように 形の上で一旦捨て子とされ それを拾った子と云う意味で 
子供の頃はお拾い様と呼ばれたりしておりました(笑)

 

つまり歩くとは、健康=体力のいる事


先の私の台詞は「体力がいるから、お身の障り」と申している事になります。

 

この言葉は、この後物語の中で 何度も出て参りますので、ああ、歩くって事、散歩だな

と思って頂けたら、もっとよくわかると思います。

 

決して、ドングリを「拾う」わけではございません(笑)

 

 


つづいて、もう一つの言葉は、奥方 野分の前が 家来の郷村新吾(さとむらしんご=獅童さん)を

呼び寄せて、白雪姫の暗殺を命じます。


その時、その事は告げられず 先に武士としての約束を宣言させられ、
新吾は「武士のキンチョウにかけて」と申します。  

 

キンチョウとは 「金打」と書きます。

決して 「緊張」ではございません。「金鳥」でもございません(笑)

 

 

この『金打』・・・とは?


辞典に「約束をたがえぬという誓いに,武士ならば刀の刃や鍔(つば),
僧侶ならば鉦(かね),女子ならば鏡など,
金属同士を互いに打ち合わせてその証としたこと。かねうち。」と
ございます。


本来でしたら、刀の鯉口を切り 小柄でこのはばき元の刃を叩いて見せ
金属音を鳴らします。これが金打です。


今回の『本朝白雪姫譚話』では 明確にはその仕草はしておりませんが
言葉で金打(きんちょう)と云えば 「約束は違えぬ」と云う意味となります。

 


結局 新吾はこの武士の金打を違え 白雪姫を助けてしまうのですが・・・。

 

このふたつの言葉は 現代のお客様にはどうもなかなか伝わりにくいかな?

とも思えますので、ぜひ知ったうえで 再度のご観劇頂けましたら幸いです(笑)