今月の歌舞伎座『三月大歌舞伎』
並びました演目に私 少しほろ苦い経験を持っております。


昼の部『傾城反魂香』に登場致します狩野雅楽之助。
夜の部『盛綱陣屋』に登場致します信楽太郎。

これらは注進と云われるもので、戦線の状況を伝えるお役。

一人で出てきて、暴れるだけ暴れて かっこよく引っ込んで参ります。
歌舞伎ならではの演出ですね。(笑)



名題試験の事については以前にも何回も書かせて頂きましたが
少しお付き合いくださいませ。
これら注進と云うのは 実は、名題試験の題材となる事が多いのです。


私が5回目の名題試験でようやく合格させて頂いたのは
このブログの読者なら、よくご存じですね。(笑)

歌舞伎の初舞台か、それに応じた舞台から最低10年、
歌舞伎の世界で修行して名題試験がやっと受けられる資格が得られます。


但しこれはあくまでも規定であって ほとんどの人はお弟子となって
10年以上の年月が必要であり 直接のお師匠さんからの
推薦がないと受けることができません



私も子役時代を別として、10年目で受けさせて頂きましたが見事不合格。

その後15年間で5回受験いたしました。

単純計算、20歳でこの世界に入って30歳の時に受けて不合格
さらに15年かかってやっと合格した時には45歳でした。

すべての人がこれには当てはまりませんが・・・。


この名題試験の題材となったのが雅樂之助が2回、
夜の部の白浪五人男の赤星十三郎が1回 
5回のうち3回落ちたのがこれらの演目です。(笑)

あと1回の不合格・・・、ま それは・・・。(笑)

そして、5回目で合格した時の演目が『盛綱陣屋』の注進、信楽太郎。


なんと今月、私の名題試験に影響した演目が、図らずも
ずら~っと並んでおります。 ほろ苦い経験でした。(笑)
今月のチラシを見た時は 正直・・・なんやねんこれ・・・



名題試験に合格してからもう20数年が経ちました。 
こんなにかかりましたが その遠回りすら 今では私 
良かったと思っております。

現在やっと生活にもゆとりが持て、毎日楽しく舞台に
立たせて頂いております。


ただ、今の若い名題下さんたち、現在歌舞伎をやめて行く人が
後を絶ちません
最近は10年以上勤めて来たのに やめてしまう人も多いのです。


何年もかけて名題試験を受け それも合格するとは限らない。
いつまでも三階の大部屋俳優では居たくない。

若い人たちにとっては 覚えるものはたくさんある 
毎月の仕事の時間は不規則 原則休日はなし 拘束時間は長い


それなのにあいている時間は踊りや三味線 唄のお稽古。

それぞれの人にも生活があり、収入もなかなか上がらない
お稽古ごとの月謝はかかる

やめて行くしかないその気持ちもよくわかります。


ですが、舞台と云うもの 役者と云うものは 
それらをひっくるめて すべてが肥沃となります。

歌舞伎はマラソンと違ってゴールは見えません

私たちが弁天小僧を・・盛綱を・・歌舞伎座でひと月やりたいと思っても
所詮それは無理です。お客様が入りません(笑)


でも舞台では自分がどの立場に居ても 輝くことはできます。

歌舞伎の役者は昨日今日の人が一朝一夕にはできないのです。

せっかく苦しい時を我慢して目指したものを
できれば若い人たちも自分自身で 輝くゴールを見つけて欲しいです。


今月の演目の名題試験の題材を見ながら 苦笑いしながら 
そんな事を振り返っておりました。(笑)


私もまだまだ現役、ゴールは見えませんが、道中楽しみながら
毎日 毎月 舞台をつとめさせて頂いております。