先日、一幕見で観劇させて頂きました『暗闇の丑松』
股旅ものを書かせたら右に出る人なしの長谷川伸さんの作品です。

『瞼の母』や『一本刀土俵入』などは、歌舞伎でもよく
上演されておりますね。


『暗闇の丑松』はそんな中でも異色の作品です。

本来の丑松は 河内山宗俊や片岡直次郎と共に
天保六歌撰に登場するひとりで 講談の人気者です。
暗闇の丑松は 直次郎の弟分になります。



ですが『暗闇の丑松』のお芝居は、その事には一切触れず
別仕立ての人物になっております。

昭和9年に六代目尾上菊五郎さんが初演されてます。
ですから音羽屋のお家のお芝居と云いましても過言ではありません

しかしそれからこのお役をつとめられた人は、
まさに多数に渡ります。


猿翁旦那、二代目松緑さん、白鸚さん、辰之助さん 
松緑さん 橋之助(現芝翫)さんと云った人はもとより 
長谷川一夫さん 萬屋錦之助さんも つとめておられます。


今回の菊五郎さんはやはり、手慣れたお役で丑松はこのような人かな?
と思えるほどとても手堅いです。


ですが、菊五郎さんはお米の方もつとめられておりますので
ある意味異色でしょうか。

ちなみに、辰之助さん(今の松緑さんのお父様)が丑松の時です。
たられば は言ってもせん無い事ですが、もし辰之助さんが
ご存命であったら、菊五郎さんが丑松をされる事は
なかったのでしょうか??

いえ、きっと演じられていたでしょう。


辰之助さんと菊五郎さんのコンビ。
記憶が定かではないのですが、なんらかの映像で見た気が致します。
実際の舞台も見たかったですね。



別の所で私個人的に「あれ?」と思いましたのが、
團蔵さんの演じられていた潮止当四郎。

以前、私もつとめさせて頂いた事のあるお役ですので、
やはり気になります。

私がこのお役をさせて頂いた時には もちろん團蔵さんの
このお役をお手本にさせて頂きました。


その時には髭面のうらぶれた浪人で、着ている着物も
木綿の地味な雰囲気でした。


それが今回はなんともいい男で着物も絣の様に見え、
「あれ?こんなに すっきりした二枚目のお役だったかな?」と
ちょっと首をひねってしまいました。(笑)

團蔵さんを参考に 役作りしたはずなのに、
後々また團蔵さんがつとめられた時には 男前になっとる・・・

なんでしょう、この妙に納得のいかない感じ(笑)

ま、結局二枚目だろうが、うらぶれていようが、
幕開きで、丑松に殺されてはしまうのですがね。(笑)


雰囲気的にもそれぞれのお役の方が、はまり役と云った感じで
江戸時代の板橋と云う場末の妓楼の雰囲気と町の湯屋の雰囲気が
このお芝居の情緒ですね。


どなたかがコメント欄で書かれておられましたが 今の若いお方は
所謂、銭湯の三助と云う職業もご存知ないでしょうし、
湯船の湯加減を裏側から熱いお湯を湯船に通したり 
堰を開けて水を埋めたりする作業は お分りにならないでしょうね。

もうお風呂屋さんに行くと云う事さえ少なくなりましたものね。

でもお芝居の中で、こう云った情緒を楽しんで頂きたいと思います。