今日は『渡海屋 大物浦』の、音羽屋とおもだかやの型の違いを
ご紹介致しましょう。

簡単に云いまして、形のおもだかや、写実の音羽屋と申しましょうか?

『義経千本桜』に限らず 現在では作品の上演時間の都合上 
割愛する場面が結構多くございます。

色んな演目を上演するために、通し狂言の一部だけを上演する
「見取り(みどり)狂言」

今回の「渡海屋 大物浦」も『義経千本桜』の中の「見取り狂言」です。

以前にも書きましたが、昔は歌舞伎をよくご覧になり よくご存知の方が
前提でしたので ここはお客様は先刻ご承知でしょう? と云う 
お話しの進め方だったのですが、これは現在では正直、不親切です。

ですから猿翁旦那は全編で一つのお話しと云う 通し狂言を多く上演されました。

もちろん見取りの時も 通しの時も『渡海屋 大物浦』に関しましては
上演時間は同じです。

『義経千本桜』も全編 通して上演しますと、江戸時代のようにそれこそ
朝日が昇ってから 夜 遅くまで1日かかりで上演しなければばりません

今ではご覧になられる方も 演じる方も 交通の最終便の都合もありますでしょうし
そんなに長くは勤めて居られません・・・(笑)

ですから型によって 割愛する場面が出て来る訳です。

まず今回の「渡海屋」義経が登場してから 元船に乗り込むまでの間に
お柳(典侍の局)が提案して 義経の航海の無事を祈り 杯事(さかずきごと)が
ございます。

これから義経を襲おうと思っている知盛派が、義経の無事を祈るのも
変なお話ですが あくまでもこれは、お柳としての配慮ですね(笑)

ですがこれは音羽屋型で おもだかや型ではここは割愛致しております。

「大物浦」に至ってはさらに如実です。

おもだかや型は知盛との立ち回りは私たち四天王が戦いますが、
音羽屋型では、別に4人の武者が登場致します。

この武者たちすべて 知盛に斬られてしまいます。(笑)

立ち回りの手順 合方(音楽)もかなり違いますが これは
同時に二つをご覧にならないと 違いがわからないかも知れません

また義経に向かう述懐の中で 知盛が薙刀(なぎなた)を持ってさらに
戦おうと致しますが、おもだかや型では 大きな痛手のために
知盛が一瞬 気を失い 仏倒れ(地蔵倒し、とも申します。)を見せますが、
音羽屋型にはこれはありません

また、昨日ご説明いたしました安徳帝が女宮なのに、清盛が男宮と偽って
帝の位に就かせ 天照大神の怒りをかって 平家の一門が悉く滅んだ旨を
おもだかや型では、知盛の台詞として語りますが 音羽屋型では
この台詞はございません

正直、ただ歴史的にご覧になられているお客様は、安徳帝が男子であると
思っておられるので あえて『義経千本桜』の設定の中での安徳帝女の子説は
かえって混乱されるとの配慮でしょうか?

私は、この設定には意味があるので この台詞は云った方がいい派です。(笑)
が 皆様は如何でしょうか? 

そして両者の一番の大きな違いは、錨をもって入水する場面、
型を重んじるおもだかや型は 錨を持ち上げるまでの見得が
3~4回ほどございますが、音羽屋型はこれらの一切の見得がなく、
錨を持ち上げると そのまま海に投げ入れ その後すぐに 後ろ向きに入水致し 
すぐに幕となります。

写実ですね。

そして花道に入る時の義経の見得もありません 

小さな違いは至る所にもございますが ここがおもだかや型と
音羽屋型の大きな違いです。

再度 ご観劇のチャンスがございましたら ここらを踏まえ
ご確認されながらご覧になると さらに面白いかも知れませんね(笑)

『義経千本桜 渡海屋 大物浦』に関しましては こう云ったところでしょうか?
ありがとうございました。