今月、第2部で上演しております、ひとつ目の演目『吹雪峠』

30分の短編のお芝居ではございますが、筋書でも掲載されております通り
歌舞伎でも結構、上演されております。

ですが登場人物はたった3人。舞台は山小屋だけ。効果は風の音と舞う吹雪。
音楽と云うものもなく 絢爛豪華な舞台ではありません

任侠の直吉(中車さん)から女房のおえん(七之助さん)を奪って
駆け落ちした弟分の助蔵(松也さん)

後日、大雪の吹き荒れる峠道で、ある山小屋に逃れ ホッと一息入れた所へ
もう一人、この小屋に偶然 吹雪を逃れに来た男が居ります。

これが、兄貴分だった直吉。

ここから3人の愛憎劇の心理ドラマが繰り広げられます。

こう云ったドラマはお手の物の中車さん(笑)
3人の心のエゴが 容赦なく醸し出されます。

歌舞伎としてはこう云った心理ドラマは珍しいものですが、
明治以後の新作としては、歌舞伎だけではなく 時々色んなお芝居で見かけます。


例えば森鴎外の小説を戯曲化した『高瀬舟』 小山内薫の『息子』等々、
これも主要な登場人物は2・3人です。

歌舞伎役者でも結構 勤められた方は多いですね。


ちなみに『高瀬舟』は1981年1月歌舞伎座に於いて 猿翁旦那の役人と
幸四郎さんの科人喜助で上演されており、
『息子』は2005年11月歌舞伎座にて 染五郎さんと歌六さんとで、
上演されております。

中学、高校あたりの教科書などに よくこう云った戯曲が掲載され 
発表会などで演劇部などが上演したりしており 若かりし頃
ご覧になられたお方は、居られませんか?(笑)

歌舞伎では直接の上演機会はありませんが『夕鶴』などは覚えのある方も
多いのではないでしょうか。


私の高校時代の教科書にも たしか『高瀬舟』『息子』
この両方が掲載されておりました。

しかし、クラスで上演されたのはシェークスピアの『ベニスの商人』で、
残念ながら私は、出演者に選ばれず 見る方に回りました(笑)

こう云った心理ドラマ、演ずる俳優さんによっては 全く
違うお芝居になってしまうのは 役者で見せる歌舞伎とはまた
逆の発想で、演技で見せるお芝居とでも云うのでしょうか?

私は、『探偵(スルース)』と云う演目が好きだったのですが、
劇場で見るチャンスがなく、1972年の名優 サー・ローレンス・オリビエと
マイケル・ケインの2時間以上にわたる映画は、何回か見ました。


最近、初老となったマイケル・ケインが、
当時のサー・ローレンス・オリビエの役を 自らが演じ 
若い方をジュード・ロウ(最近のシャーロック・ホームズシリーズのワトソン博士)が、
演じてリメーク上映されましたね。

もともとは舞台劇の映画化で、時代を超えての再映は、これも歌舞伎だと思いました。

息詰まる二人の心理と描写に、私も いつかこんなお芝居ができる俳優になりたい
と 思いましたが、やはりとても技術のいる事 なかなか難しいです。


これらの作品は、お芝居と云うより 心理劇のお手本ともいうべき作品で
小劇場でもよく上演されておりますね。


今月の3人、中車さん 七之助さん 松也さんの実力が存分に発揮されます。 

いずれにしても、夢の世界の歌舞伎ではなく 現実のお客様の心に
グサッと 突き刺さるような異色な、今月の『吹雪峠』です。