『寺子屋』と云うお芝居。
内容とは別に、私たち歌舞伎役者にとって その名題下の頃には
とても恐怖の演目なのです。


今月の名題下連中の黒四天も 毎日が恐怖かも知れません(笑)
何が恐怖か?(笑)

今日はそのお話を少しばかり・・・。



今月の『寺子屋』の黒四天(捕り手)。
なにげなく並んでおりますが 実は・・。

花道から登場した松王丸と春藤玄蕃の後ろでこの黒四天 並んで座っております。

ところが、この座り方 両膝を立てて浮かし どこにも持たれ掛けないで、
かかととかかとを合わせ 中腰のような姿勢で座っております。

これはお客様にはわかりませんが、かなりつらい姿勢なのです。
私も若い頃には何回も経験いたしました。


このブログをご覧のみな様 もし興味があられたら いちど挑戦されてみては
如何でしょうか? おそらく五分と持たないと思います。(笑)

さて、皆様、準備はよろしいですか???
行きますよ、スカートはいている方、ちょっと着替えてください(笑)

  
とりあえず、「きをつけ!」の態勢をとってください。

そのまま、膝を開いて、膝を地につけないで、上体をまっすぐにして
しゃがんでください。
かかとは上がった状態です。

この時に大切なのは、一応目線はまっすぐに保って下さい。

しゃがむときに足元は見ないでください。



出来ました???

この状態で・・・そうですね、テレビを見るでもいいです。
何かに意識を集中した状態でも結構ですので 
15分間、静止できますでしょうか。

ここまで読まれた時点でもいいので、是非一度 試してみてください(笑)


勿論私たちは、目線だけではなく、お客様の前におりますので、
寝ることはおろか あまりにかけ離れたことを 考えてしまいまして
意識が全く違う方向に 行ってしまうことは厳禁です。

そこにいることが芝居。
じっとしていて そこにいることが 芝居。

更に、恐らく実際にお試しになられた皆様も パジャマやフリース、
いわゆる 部屋着で試された方が 大多数だと思いますが 役者は違います。

草鞋を履いております。 つまり親指にひもが食い込こんでまいります。 
太腿にはひも付きと言って 脚絆のひもをゲートルのような状態で結んでおります。

座った時は大丈夫!と思うのですが 段々とふくらはぎが痛くなり
自然と体が揺れて参ります。

ここからが辛抱のしどころ・・・。


私たち百姓衆と子供の花道のやり取りの時には、「早く引っ込んでくれ!」
と 心の中で叫んでいるような気持ちです。(笑)

踏ん張って力を入れれば入れるほど 激痛が走り 脂汗が滴って参ります。
この状態で、外の15分頑張った後に 源蔵宅内へ入り 今度は
お客さまの真正面で うちの中で控えて座り 松王丸と源蔵のお芝居の
邪魔にならない様に首実検まで座っております。

そして痺れの限界が超えたあたりで 松王丸の台詞

「ご家来衆! 源蔵夫婦を取り巻き召され!」

で サッと立たなくてはなりません



正直、これまでに勤めてまいりました 何人かは即座に足が元に戻らず 
ひっくり返った事もある試練ですが・・・

お客さまには知れずに こんな大変な作業を毎日 繰り返しているのです。


花道から出る時は今日の、試練の始まり!と 自分に言い聞かせながら
花道から出て参ります。


慣れます、慣れますが・・・慣れないです。
大丈夫です、大丈夫ですが・・・日々頑張って勤めております。

もし、無事に花道を引っ込む時には 黒四天にも静かな拍手を送って上げて下さい。 


私も何度も勤めました。

その痛みも その辛さも その試練も
それを感じてこその 今の私があると思っております。

今、それを体験している弟弟子たちの 気持ちわかります。

でもそこから開けてくることもあると 思って勤めてくれたらいいなと思います。

きっと、黒四天を見ていてくれる人がいると そう思って勤めてください(笑)