ご存知だと思いますが、立ち回りに使われる合い方は、みな様の
客席から向かって左側にある黒御簾(くろみす)と云う処で演奏されております。

その曲も色んなものがございますが、もっともポピュラーなものが、
『小金吾討死』に使われております「どんたっぽ」と云う名称の合い方。

合い方の名称は、例えば曽我物の近江と八幡が戦う時には文字通りの
「石段(いしだん)」これは立ち回りの場が鎌倉八幡宮の石段であるからです。

大立ち回りでの丸橋忠弥で使われる「忠弥」その他、
「早めの合い方」「韋駄天合い方」等、
わりとその場の具体的な事が名称になって居ります。

長唄の一部などを取った「三社祭」「陣立(じんだて)」「初月(はつづき)」

その他には、演目の一部を取ったりして使われることが多いです。


『義経千本桜』の大詰め「蔵王堂」では、忠信と僧兵との時代物的な
ゆったりとした合い方が使われる故「大太鼓入り合い方」と申します。

これは読んで字のごとく、黒御簾の立ち回りの音楽の中に、大太鼓が
入っているからです。

これと同じく『小金吾討死』にで使われる「どんたっぽ」は、
大太鼓の≪どん≫小太鼓の《たっ》鼓の《ぽ》が繰り返されるので、
「どんたっぽ」と云う名称になって居ります。

今度 この立ち回りをご覧の時は、この合い方にもご注目!
いや ご注耳下さい!(笑)

この「どんたっぽ」の合い方は、どなたかコメント欄にも
書かれておられましたが、「小金吾討死」の他、「弁天小僧」や
「八犬伝、芳流閣」などの大屋根の立ち回り、
また「加賀見山再岩藤」の大詰め 望月弾正と捕手の立ち回り、
「蘭平物狂」等 様々なところで使われております。

そして、捕り方はやはり黒四天や花四天が多いですね。
名題下役者としてはもちろん、若手主役の方も必ず勉強して
通らなければならない道です。

同じ花四天の立ち回りでも「吉野山」や「落人(仮名手本忠臣蔵三段目)」
などの立ち回りは合い方とは呼ばず、唄立ち回りと申します。

これは例えば、「吉野山」の曲の中の一部が、立ち回りに使われているので、
別に合い方としては 必要としない訳ですね。

これらに登場する名題下さんは、唄に合わせて動かなければならないので、
もちろん唄を知って居る事も大事ですし、トンボも間(ま)に入って
返らなければならないので、かなりの技術を要します。

ですから、これらの唄立ち回りに登場する名題下は
精鋭だと 思ってください。(笑)