『渡海屋』に登場する 三枚目の鎌倉武士
右近さん扮する 相模五郎と 亀鶴さん扮する入江の丹蔵のこの二人。

何度も色々な配役で 演じられている演目ではありますので、
複数回ご覧になられた方も おられると思います。

皆様 この二人が 一体何者であるのか お分かりの上、
ご覧になってくださってますでしょうか?

勿論、台詞の中で知盛が申しております。


この二人、鎌倉武士(北条時政の手の者)と名乗っておりますが
実は鎌倉方(=義経とも現在対立している 兄頼朝方)ではなく、
知盛の手下なのです。


後半の『舟矢倉』の場では 知盛の戦場での近況を知らせる注進として
拵えも俄然変わり カッコいい役どころとなりますが、
これは二役ではありません。 先の場面と同一人物です。(笑)


わざわざ (義経と)敵対する頼朝方を名乗り 田舎武士の形(なり)をして 
お柳と銀平(=知盛)に 無理難題を押し付けて からみますのは 
知盛が奥に居る義経に 「あなたの味方ですよ!」と 信用させる計略のため。 


もちろん これはすでに見破られているのですが、お芝居として
前段に、この三枚目の仕処を持って来るのは 歌舞伎にはよくある
演出です。


ちょっと整理いたしますと・・・

この場面の主役であります「平知盛(=銀平)」は 云う間でもなく平家の人間。
彼は、源氏に恨みを持っております。頼朝も義経も敵と云うわけです。


そして『義経千本桜』とありますので、まさにタイトルロールの 義経。
彼は、源氏方の大将として、平家の悉くを 滅ぼしてまいりました。
(この物語の中では 生きている人が多いですが・・・)

つまりは 平家方は敵なのは 明白なのですが、
現在では、兄頼朝に疎まれてしまっておりまして、頼朝方に追われております。
義経にとっては、平家方も、同じく源氏ではあれども、兄頼朝方(=鎌倉方)もまた
敵と云うわけなのです。


このあたりが ちゃんと整理できておりませんと、それぞれの立場、
実は どちら方の人間であるか、そのあたりが わかりにくいのではないかと思います。




と、そんな まさに「ややこしい」役目を負っておりますのが この三枚目の相模五郎 

渡海屋銀平に、表に放り出され 刀を曲げられてからの仕草は 
後の注進と比較されることを考えますと、真反対の まさに役得です。

わかろうと わかるまいと これも 是非とも聞いていただきたいのが、このセリフ。
渡海屋だけに みなさま ここで、相模五郎と入江の丹蔵が 
しゃべる魚尽くし 何匹くらい おわかりでしょうか?(笑)

台詞ではこうなります。


《相模五郎》 やい 銀平!

いやさ 銀ぽう・さんま め
(いやさ 銀平さまめ!)

いわし・て おけば いい蛸 おもい 鮫ざめ の あんこう・雑言
(云わせて おけば いいと思い 様々な 悪口雑言)

いなだ・ぶり だと あなご・って よくも いたい鯛・めざし・に あわび・たなご。
(田舎武士だと あなどって よくも 痛い目にあわせたな!)

《入江丹蔵》
さば・あさりながら たらこ・このわた に けいづ・というは くじら・しい
(さりながら ただこのままに 帰ると云うは 口惜しい)

せめてもの はら いせえび・に このひと たちうお かます・て やりいか
(せめてもの 腹いせに この一太刀 かまして やろうか)

《相模五郎》
あ これ あこう(鯛)なって めばる・な めばる・な
(あ これ 赤くなって 眼張な 眼張な)

《入江丹蔵》
海老・じゃこ もうして
(え~ それじゃと 申して)

《相模五郎》
かれ(い)・こち いわずに はぜ まあ 鯉 鯉。  
(彼事 云わずに はてまあ 来い 来い!)


と まあ 二人合わせて 30匹近く 魚の名前が出て参ります。
みな様 何匹 わかりましたでしょうか?(笑)

台詞と云え 昔の作者はよく考えましたね(笑)


今日の写真は、この魚尽くしを語る相模の五郎の右近さん

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姿は『舟矢倉』の注進の扮装をしております。

額の髑髏は、知盛の亡霊よろしく 死に覚悟を示しております。
ですから注進の振りの手に 幽霊手が使われているのが、
おわかりでしょうか?

右近さん 拵えを終えると 舞台上での安徳帝のタケルくんの
様子が気になるらしく いつも舞台を伺っております。(笑)

その気持ち とてもわかります。が タケルくんはもう大丈夫ですよ!ね!


自分の出番と 舞台上での子役からの先輩、
そして父親としての ハラハラな気持ちと 
色んな思考が錯誤している 今月の右近さんです。(笑)