スーパー歌舞伎セカンド『ワンピース』

今日は違う視点、舞台と云う視点から、お話を書かせて頂きましょう。


スーパー歌舞伎、セカンドも含めて 初演として上演する劇場は必ず、
新橋演舞場から始まります。

これは舞台機構が、「松竹の劇場」としては一番優れているからです。

今でこそ新しい歌舞伎座や博多座と云った劇場もできました。



スーパー歌舞伎自体の発想は 30数年前ですが 舞台機構を最大限 活かしたお芝居を
作ろうという発想は正直 それまではありませんでした。

歌舞伎でも今まで通り 回り舞台 大ぜりの屋台ぐらいがせいぜいの使い方。

歌舞伎の江戸時代から 培われて参りました、セリや回り舞台、せっかくの舞台機構が
もったいない! 


それを猿翁(三代目猿之助)旦那が セリの一つ一つを活かし 
さらに 回り舞台と大ぜりを一緒に使ったり 照明を時間差で変えて行く様な 
斬新なアイデアを取り入れられました。

これがスーパー歌舞伎『ヤマトタケル』初演へとつながったわけなのです。



新橋演舞場の回り舞台の中には、大小合わせて単独に動くセリが9つ
花道のすっぽんも単独で動かすと 2つになります。

これらを同時に動かしたり セリのまま舞台面より高く持ち上げたりと
様々な使い方ができます。


あるものを 活かした使い方をして 新しい手法のモノを見せようというのが
歌舞伎を超えた(もちろん歌舞伎の中でも使っておりますが)スーパー歌舞伎の
発想の原点であったわけです。



ですが 舞台をご覧になられているお客様は 舞台がどのようになっているか?
ほとんど接するチャンスがないかと思います。


実は新橋演舞場、敷地としましては、あまり広くはありません
それで舞台面積を目一杯取っていますので、両袖はそれほど広くはありません


一番広いところが舞台ですが、これに匹敵するだけの屋台の収納場所がないのです。


余談ですが、国立劇場は舞台上の大道具を組んだままの状態で 
舞台裏に6か所 舞台下に6か所 収納できる広さがあります。 

ですが新橋演舞場 先ほども書きましたが 両袖でも下手の袖は、
舞台の半分くらいの間口しかありません

上手の袖がやっと舞台面、前半分と同じくらい 今回2幕で使用している
本水の装置がやっと置けるほどのスペース。

サウザント・サニー号やインペルダウンの監獄等 ではあれだけの大道具、
どうやって舞台上へもって来るのでしょうか?

以前に奈落にサウザント・サニー号の収納されている奈落の写真をアップしました。
奈落でもこのサニー号だけでいっぱいいっぱい!

実は大道具などは、重なり合って置かれております。



お客様は回り舞台の盆と云うものは どのようになっているかご存知でしょうか?

三階席などから 今月の舞台を ご覧いただいた方は その一端を見ていただくことは
出来るかと思います。
舞台の最中に、本来でしたら 目にすることの無い部分も 一部見えることもあるでしょう(笑)



ですが、劇場に来ておられます 大部分の皆様、その皆様には  回り舞台は見えません。
ただ、回って 舞台が転換されたという形に見えるのではないでしょうか。

おそらく電子レンジ等のターンテーブルの様に、薄いお皿の様に
なっていると思われておられませんか?


それは表面だけが見えているので、回り舞台の盆は実は 
奈落までの円筒形になっております。


地下の楽屋の一部風景??も 一部座席からは 見えてしまいます。
これは、私たちにとりましては 見せたくないところですが、見えた方には
ラッキー???な部分でしょうか??


正直、30数年前の昔の中座 南座と云った回り舞台はターンテーブルの様に面だけでした。

ですが現在の盆は立体的な構造になっております。



つまり何が云いたいかと申しますと、舞台の下の部分、いわゆる「回り舞台」の下は、
立体的に すべてが一つの形になっておりまして そのものすべてが 舞台機構になっております。
この中に大ぜりやたくさんの小ぜりが組み込まれていると云う事なのです。

要するに 盆の下に 舞台装置を置くことはできません


つまりセリは、盆の下の巨大な 一塊のモノの中の 扉のないエレベーターの様なものです。 
舞台の盆が回っているとき、円筒状態ですから舞台下も 大きな柱が回って居る様なもの・・・。

盆の下は そのまま円筒状の 巨大な仕掛けが あると思ってくださるとわかりやすいかと。
盆と回り舞台のために この 大きな舞台下部分には 「空間」がないのです。



大きな 舞台下の空間(であるはずの空間)が 実際には 大道具の収納場所としては使えません。

ということは、別の場所に収納してありました 次に必要な大道具などを 収納場所から出してきて
大ゼリに乗せ 舞台上へ運ぶ作業が生じるわけです。

運んだら 終わりではございません。
もし、舞台で使う 色んな場所に置いてある大道具をそこから舞台へ運び 
その次は元に戻して次の大道具を舞台へ運ぶ・・・。

これができたら理想的ですが、先も申しましたように新橋演舞場は
かなり狭いので、これができません


今 これができる劇場は 国立劇場と 松竹の劇場では歌舞伎座 そして博多座
だけでしょうか?


新橋演舞場では 大道具を 舞台上に出した後は 
それがあった場所に 次の道具を移動させ準備して
今度は 終わって降りてきた道具を 別の場所に収納しつつ 次の道具を設置する。

これを出したら 次にはこれをスタンバイさせて その後のモノを 次のところにおいて
そして、今舞台にあるものが 降りて来たら ここに動かして・・・

そんな 作業が 皆様には見えないところで  行われております。
ですから休憩時間中の大道具さんは、そのパズルの様な作業で幕間は大忙しです。



国立劇場でスーパー歌舞伎ができれば もっと楽に色んな事が出来るのでしょうが
そうも行かないのでしょうね。


それなりの 舞台機構がございます 新橋演舞場ですら こういう作業が必要なのです。 
現在これだけのセリの必要な公演劇場が 名古屋にはございません。 


大阪松竹座もかなりコンパクトな大道具となってしまうのです。
ですが、一応は コンパクトとはいえ 一応の演出が保てますのが 大阪松竹座。
ここが限度です。


確かに今までのスーパー歌舞伎は、名古屋でも公演した事がありますが、
セリや照明を使った演出が 上手下手からの登場になったり という別バージョンになりました。

大人数でセリ上げの 例えば今月の公演で申しますと 白ひげと海賊団の登場シーンなどが
後ろの幕が開いたらそこに居た という様な演出になってしまう訳なのです。

これでは 新橋演舞場でのお芝居の50%くらいの手法しか できなくなってしまいます。
このあたりが、地方でお芝居を上演する際の最大のネックと云わざるを得ません



『ワンピース』来年3月大阪松竹座、4月博多座の公演が決まっておりますが、
新橋演舞場を含めて3か所でご観劇頂くと 多少の演出の違いが
お分かり頂けるかもしれません(笑) 

その劇場 その劇場での楽しみ方は あることはわかります。
大阪だから 博多だから何度も 見ることのできる方も たくさんおられるのは
わかっております。


ですが、正直申し上げまして、同じ演目でも 劇場が違いましたら厳密には違う作品に
なってしまいますのは 仕方のない事ですね。

出来ましたら、初演の新橋演舞場をご覧になられたうえで、そして地元、お近くの劇場と 
いろいろと見比べていただけますと いいなと思います。 


また、それぞれの 劇場に移るたびに 大道具さんの新たなパズルの作業がございますこと
私達役者以外の いろいろな力がございますこと 覚えていて頂けますとと思います。


今日の写真は、狭い空間をも収納場所として使っている証拠の写真(笑)


イメージ 1



インペルダウン 本水の装置の上を、収納場所としているクジラくん
(その下の写っていない場所には たくさんの監獄がございます。)

この装置を舞台上へ準備する時に 空間となった場所に降りてまいります。(笑)

それまでは、のんびりしていて下さいな(笑)