スーパー歌舞伎セカンド『ワンピース』

古典歌舞伎をご存知の方は、この『ワンピース』かなり奇抜な歌舞伎の様に
思われるでしょうね(笑)

もっとも 歌舞伎は傾く精神から出発しておりますので、江戸歌舞伎の発想と
なんら違いはありません

ただ、色々とひも解いてみますと、江戸時代の音楽と云うのは、
文楽からの義太夫節が歌舞伎に移っての竹本。 また浄瑠璃としての常磐津。
所謂、お芝居の動きを義太夫等の三味線にのせて語るという手法から始まりました。


この後、微妙にネタバレしておりますので 気になる方はご注意を!





今回 ニュー・カマー軍団の出陣の時 イワンコフ(浅野和之さん)が
一部 それをもじって竹本の三味線(BGM)に合わせて 語っておりますね(笑)

これは古典からスーパー歌舞伎への温故知新でしょうか?(笑)



お話を元に戻しますと 歌舞伎の舞台の三味線は その時代の流行歌を取り入れ 
吉原や巷で流行っていた長唄 清元等をお芝居の曲唄として取り入れました。 


現在の黒御簾の中や 出囃子と云われる緋毛氈の山台で演奏される
三味線や鳴り物による演奏に発展して行ったのです。


今では、歌舞伎の演奏はなんでも古典の様に思われますが、
江戸時代当時は最先端の斬新な音楽だったのです。

そこをまず 押えてください。


現在は 歌舞伎を超えたスーパー歌舞伎、そのスーパー歌舞伎をさらに進化させましたのが
今我々が演じておりますスーパー歌舞伎セカンド!

その『ワンピース』に ゆずの北川悠仁さんによってのテーマ曲「TETOTE」が作曲されました。 


今、劇場を一つにしておりますこの曲、それが新しいように思われますでしょうが、
これから300年の時を経ると その時の皆様は どう思われますでしょうね?(笑)

誰も知る事の出来ない 未来の話になってしまいますが・・・
これこそが、歌舞伎のたどってきた道なのです。



また江戸時代には、照明はろうそくしかなく、明かりとしては小屋の中は
かなり暗かった事でしょう。

「明かり」「照明」


これは現在の歌舞伎では画期的に発展したものの一つです。


暗闇から一瞬にして、舞台が明るくなるほどの照明。

また周りは暗く 主人公だけが明るいスポット照明 
今回、ふんだんに使われているレーザービームや コンピューター制御の
バリーライトなどの独特の照明等は 江戸時代の歌舞伎にはないものでした。

ですが、これだけ装置がそろってハイテクになっても 未だに江戸歌舞伎と
同じこと(音楽?)をやっている手法がございます。


もう何回も書きましたが 猿翁旦那曰く歌舞伎にとっての四大要素
「変わるもの」「変わらないもの」「変えてはいけないもの」
「変わらなくてはいけないもの」


この4つ目の「変わらなくてはいけないもの」は 時代にあったテンポ。
いつもの歌舞伎の様にのんべんだらりと台詞を言っていると
この『ワンピース』お客様に飽きられます。(笑)


また「変わるもの」は古典からスーパー歌舞伎になったように時代のニーズ。等


「変わらないもの」は歌舞伎という派手さ!
衣裳 かつらの奇抜さはもちろんの事 本水の立ち回りや、宙乗りと云った演出は
江戸時代から変わらないものです。  


そして歌舞伎にとって一番大切な、「変えてはいけないもの」
これが、女形と見得です。



猿翁旦那の 四大要素を頭におきまして、もう一度 スーパー歌舞伎セカンドに言及しましょう。



これだけハイテクな装置と照明 音楽があっても、

なんら江戸時代と変わっていない 舞台狭しと活躍する女形。
これは 逆に女性が演じると なんかチグハグな感じで 歌舞伎ではなくなってしまうのです。

そして大事な要素がもうひとつ 大立ち回りの時などに 現代音楽に合わせて
附けの音が入り 見得を切る。 

これが決してアンバランスではないでしょう?


「附け」と云うのは人が走るときの 「バタバタバタ」 とか 見得の時の「バッタリ!」
と云う ある意味 音楽的な効果音です。


逆にこの附けをやめて 音楽だけで見得を切ったとしたらどうでしょうか?

みな様 想像してみてください。 きっと なにか物足らない感じがしますから・・・。(笑)



海外で歌舞伎を上演したとき 外国のご観劇のお客様は「あの音は宇宙の神の音だ!」
と 率直な感想を述べられ 絶賛されました。(笑)

「あの音楽家はなんだ」と云う 問いかけもあったそうです。


そのため、本来の歌舞伎公演では、表舞台に出ることの無い「附け打ちさん」
以降の歌舞伎公演では 英語での紹介をすることになりました。


案外、なじみのある私達よりも 海外の方々が 注目してくださったというのが
不思議ですが 必然なのでしょうか。



この附け 実はこの『ワンピース』のお芝居では普段の数十倍以上の数 
打たれております。

打っているのは附け専門の福島洋一さん 


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ちょうど休憩中 アイスモナカを食べてる最中に撮らせてもらいました。(笑)
ありがとうございます。



昼夜にわたって彼一人が すべての附けを打っているのです。

次回 もしご覧になる機会がございましたら、上手の舞台前で附け板の前で
附けを打っている彼にも ご注目してみてください。

三幕の立ち回りや見得の時などは 彼 打ちっぱなしですから・・・。

恐らく、大変な公演であると思います。

これ程の 立ち廻りに次ぐ 立ち廻り。
しかも、スピーカーから出て参ります「音」に 生身の「音」が 対抗する形になります。

恐らく かなり力が入っているのではないかと・・・



これもひとつの技術です。こういった隠れたところにいる技術者が
歌舞伎を支えております。



私はいつも申し上げておりますが、歌舞伎に裏方さんはおりません
みんな 見えないところにいる技術者で すべてが重要な役割です。

300年以上続いて これからも続く「変えてはいけないもの」

今日は「附け」のお話でした。



皆様、福島さんの熱演にも 是非とも静かなご声援をお願いいたします。