昨日から続きます、スーパー歌舞伎『八犬伝』の思い出。

昨日 自分でブログを書いていて ある意味びっくりしたのですが、
もう20年以上たっているのですね。(笑)

ブログをご覧頂いておりますお客様の中には ご存知の方は ほとんどおられないかと
思って書いておりましたが 案に相違、たくさんの方が 当時の思い出をコメントで 
お寄せ下さいました。


長く見て下さっている方 本当にありがとうございます。
思いがけない嬉しいコメントの数々でございました。

また、最近ご覧になり始めた方 どうぞ これからも末永く歌舞伎を見続けてくださいますよう
お願い申し上げます。



さて、本題に入ります。

『八犬伝』はスーパー歌舞伎の中でも一番大がかりなつくりでした。

が、それゆえに新橋演舞場でしか、その大がかりな装置が使用できないと云う
ある意味、致命的なリスクを負ってしまった 作品でもございました。

その為に 中日劇場では 新橋演舞場で上演された時と同じような機構が使えず 
演出的には その劇場に合わせたものとなってしまいまして 結果的には
その持ち味であった舞台効果を 半減せざる得ないという羽目になってしまいました。

無理強いでも何とか上演できた名古屋はまだしも、当時 大ぜりのない京都南座 
そして 大阪もまだ松竹座のなかった時代ですので 上演すらできなかったのです。


それから20年の月日が流れました。

なぜスーパー歌舞伎『八犬伝』は再演ができないのでしょうか?


ここにひとつの仮説が立てられます。



もちろん その当時の役者さんたちが、年齢を重ねております。
当時の配役では 上演不可能な事、これはもちろんございます。

ですが 数々の歌舞伎が 伝統として残って居る事を思えば これは違うように思います。


もうひとつのお金問題。

同じように莫大な費用のかかった スーパー歌舞伎『ヤマトタケル』は 
何回も再演が可能で、主役のヤマトタケルも 猿翁旦那の他 
右近さん 段治郎(月之助)さん 猿之助さん等が演じられ
(特別公演では信二郎《錦之助》さんも演じて居られます。)
多数の方が競演されております。



これは何が違うのでしょうか?


『ヤマトタケル』は「衣裳」、「かつら」、「舞台演出」にお金をかけ 
どこの劇場でも上演できるという システムを作りました。

それに引き換え『八犬伝』は「舞台機構」そのものにお金をかけましたので
新橋演舞場サイズの大道具を拵えました。

このサイズが他の劇場では、使用できないサイズなのです。


大きく違ってまいりますのは この点です。

ここがバブルの影響か? 

他の劇場でもそのサイズの大がかりな大道具を なんとかその時にこしらえられるか?
と云う ひとつ賭けもあったかも知れませんが それはもう時代が許しませんでした。


違う大道具での上演は中日劇場では一応 公演されましたが、やはり
新橋演舞場をご覧のお客様からは かなり評価が低かったみたいです。

そんな訳でスーパー歌舞伎『八犬伝』は新橋演舞場以外では 本来の姿では
上演できなくなり ここにその再演も封印されてしまったのです。
 
歌舞伎と云うものは、初演の公演のもちろんその時の評判も大事ですが、
その次に次世代の人がどのように この演目を伝えていくかと云うのも
大事な要素かとも思います。



しかし、そういう負の遺産を背負ってしまった スーパー歌舞伎『八犬伝』ですが
スーパー歌舞伎10作を超える歴史がある中 いわゆる「古典歌舞伎」で
扱われております作品をもとに致しましたのは『八犬伝』だけ。

これは また大きな意味を持ってまいります。

勿論、古典の作品といたしましては ある程度の上演はございました。

ですが、スーパー歌舞伎『八犬伝』として上演されて後に
沢山の、ある意味オマージュの作品が 生まれましたのは、間違いはございません。

上演記録を見ましても 昭和50年代からの20年と云う期間、
何度か3代目猿之助旦那にての通し狂言としての上演や 一幕ものの上演、
そして国立劇場におきまして 二度の菊五郎劇団によります通し狂言がございました。

平成に入ってのスーパー歌舞伎『八犬伝』の上演の後は 20年間の間に
10回を軽く超える おそらくスーパー歌舞伎の上演を加えますと20回以上の 
さまざまな「八犬伝」の作品が上演されております。


その中には 私たち澤瀉屋によります 数度の通し上演もございますが、
それ以外にも、上方の若衆歌舞伎によります「新八犬伝」、
そして、現猿之助によります「新八犬伝」という新しい形も生まれております。


元があったとは申しましても これもまた 特筆すべきことだと思います。

スーパー歌舞伎『カグヤ』に対してのオマージュ作品は 今年のスーパー喜劇『かぐや姫』
がございます。

ですが、恐らく古典の『南総里見八犬伝』をもとにしたスーパー歌舞伎『八犬伝』

そしてそのスーパー歌舞伎『八犬伝』の手法などをどこかに取り入れた 
新たな「八犬伝」の物語と云うものが 出来ているのだと思います。


どうしても 再演できなかった 舞台機構を持っております一つの作品ですが、
そこから引き継がれたであろう また新しい作品。

そんな繋がりを感じずにはおれない『八犬伝』

当時のスーパー歌舞伎の作品としては珍しく、テレビでの放送もございましたので
それをご覧になった方も 多いかと思います。

ここで この時代のたった3か月でしか上演されなかった『八犬伝』を 
ご観劇下さったお客様は これが紛れもなく正の財産だと思います。

その後見ようと思っても見られないものを ご覧になられているお客様は
何物にもかえがたい宝物を手に・・・いや 目に焼けつけられた これこそ無形の芸術の極み。

一瞬の輝きもまた 1つの作品、

映像により、永く人口に膾炙いたしますのも 1つの作品、

作品の 魂を受け継いでつながる思いを作り出すのも 1つの作品。


そんな作品に 携わることが出来たという思いは 年月が経つにつれて 
大きくなるような気がいたします。