さあ、今日は昨日の続きで『襲名口上』でのかつらのお話。

衣裳の見た目と違い、かつらの違いは正直、お客様のお目には
お分かりにくいかも知れません

まして口上は後ろを向きませんので、かつらの後ろを見ると云う事が
できないと、思います。

恐らく短い正面からの姿以外は 平伏してる状態でのかつらになるでしょうか?
見る席にもよりますが ちょっとわかりにくいですね。

想像力をたくましくして 想像(笑)してみて下さいませ。



市川宗家の成田屋は「まさかり」と申しまして、独特の男髷を結っております。

「まさかり髷」の意味は 私も出演させて頂いたテレビ番組「ぶっちゃけ寺」でも
トークの合間に猿之助さんが紹介されたのですが、
残念ながらその部分の 放送はなかったようです。


猿之助さん曰く

「成田屋は成田山新勝寺の不動明王から、荒事のご託宣を受け 歌舞伎の演目に取り入れました。
そこでその不動の掲げる〈まさかり?・・・剣?〉にて悪霊を退治するという例に倣い 
髷を〈まさかり〉にしたと云う謂れがあります。」


私も思わず なるほど!と猿之助さんの知識の深さに感心致しました。

この「まさかり髷」これは格式で市川宗家が許したお家、役者にしか
この髷を被る事はできません

ただ、代々團十郎さんだけが被れる「まさかり」は全部がびんつけ油で固められた
「油付のまさかり」

團十郎さん亡き後は、現在 海老蔵さんだけがこれを被れます。
つまり市川家 ひとりだけ。


これに対しまして「櫛目の入った 油付まさかり」と云う かつらがございます。

澤瀉屋一門で現在、この髷を許されているのは猿翁旦那 段四郎さん 
それに猿之助さん お家は違いますが 瀧乃屋の市川門之助さん 

残念ながら中車さんは襲名の時に、十二代目團十郎さんからは
まだこのまさかり髷のお許しが出ませんでした。
そこで「袋付まさかり」と云う油付ではない 特殊な男髷のままなのです。

今月の中車さんが「口上」で、被っておられるのは、このかつらです。


袋付と云うのは 襟足のところが町人のかつらのように、ふくれているもの、
これを袋付と申します。


右近さんはじめ おもだかや一門の立役部屋子さんたちも
この「まさかり髷」は許されておりません
「まさかり」そのものが、許されていないのです。

ですから、市川家の柿色の裃に髷は「町人髷」で並んでおります。



このお話は なんと申しましても「市川家」の独特の決まり事です。

他のお家は、すべて町人髷で、かつらでのお家の違いは市川家か、
それ以外か と云う事になります。



追記と致しまして・・・

あくまでもこの作法は『襲名口上』または格式の時の『口上』に於いてであり 
たとえば『伊達の十役』の幕開きの口上ですとか、
スーパー歌舞伎セカンド『空ヲ刻ム者』等の 口上の折には 猿之助さん始めみんな 
町人髷で浅黄の裃で並んでおります。

これは洋服で云えば 燕尾服やタキシードに対しての、
略礼服と思って頂けるとわかりやすいでしょうか?


いずれにしても、一堂に並ぶ『口上』ですが、そこはやはり、格式がものをいう
歌舞伎の世界なのです。