今日は昨日の続きのようなブログになりますが、今月の『男の花道』の
三代目加賀屋歌右衛門。 江戸へ下り大当たりをとりました。

ですが、初代歌右衛門は、上方には居りましたが、江戸には下っておりません
三代目歌右衛門は、初代加賀屋歌右衛門の実子です。

では、二代目歌右衛門は?

昨日のブログでは、そのあたりを触れないままに 話を進めましたので
引っかかっておられる方も 多いのではないかと思います。


今日は その二代目歌右衛門のお話。


実は初代歌右衛門は、実子に歌右衛門を譲る前に、一旦 弟子である
初代東蔵に 二代目歌右衛門を譲っております。

初代歌右衛門はどの時期に隠居したのかは、定かではありませんが、
おそらく初代の没後かに 二代目の歌右衛門は 主筋である三代目に
「歌右衛門」の名跡を明け渡し 自分は元の東蔵に戻った訳です。

これは、世襲制を重んじる江戸歌舞伎とは対照的に 
上方ではよくある事なのです。


父(師匠)の名前でも 実子がまずければ(所謂 芸の技術が)子にではなく
技術の優れた弟子に 大きな名前でも 譲っておりました。

上方の名前の何代目と云う、代数が若いのはその為なのです。


名前は自分が大きくするのであって 大きい名前を譲られたからと云って
その役者が大きくなる訳ではない、と云うのが当時の上方の考え方。

ですから名前は何でもいい、現役名で名前を譲り 自分は新たな名前を名乗り
名前そのものをどんどん譲って行ったので 血筋でない方が名前を
多く継がれております。



たとえば、Aと云う大名跡の役者が Bに名前を譲り 
自分はCを名乗っても もともとの実力が変わる訳ではない
お客様はCである私を見に来るという 自信的な上方の考え方。

それに対して Aと云う名跡をBに譲れば BはAのように
大きくなるという江戸的な考え方。

どちらも一理あるのですが、皆様はどちらの考え方でしょうか?(笑)



この初代歌右衛門さんは上方の、そう云った前者のお考えを
お持ちの方だったのでしょうね。

そして初代東蔵さんは上方の方ですが おそらく、後者の
歌右衛門のような大きな名前は 私より 三代目として御実子が
継がれるべき と云うお考えの方だったのでしょう。


また、昨日も書きましたように初代、三代目の歌右衛門は屋号は「加賀屋」ですが、
二代目に限りましては、主筋を憚ったのか「蛭子屋(えびすや)」としております。

ただ、初代三代目は、屋号が「加賀屋」の「加賀屋歌右衛門」ですが、
二代目は屋号は「蛭子屋」と云うのはわかっておりますが、苗字としては
何を使っていたのでしょうか?
本名の水木を使い初期のころは「水木東蔵」だった時代もあったみたいですが・・・

また、東蔵に戻った時にも 何と云う苗字を名乗っておられたのか??
わかりませんでした。

正直、現在「歌右衛門」の名を遡りましても「中村歌右衛門」として出てまいります。
中村を名乗りましたのは「四代目」以降ですので・・・

このあたりは、まだまだ調査の余地はありそうですね。


ここまでは おそらく 史実と考えられるお話です。



ここから考えあわせまして 今月のお芝居の世界に 考えを移してみましょう。

今月は「三代目歌右衛門」を猿之助さんが、そして「東蔵」を演じておられるのは
坂東竹三郎さんです。

この「東蔵」とは??


今月、坂東竹三郎さんが扮しておられる中村東蔵のお役は、年代や時代背景から考えますと、
二代目歌右衛門(初代東蔵)ではなく、そのご実子の二代目東蔵さんに当たりますでしょうか?

・台詞の中で、三代目(猿之助さん)が十二歳の時に、初代歌右衛門が亡くなり、
 その後、二十年間 東蔵(竹三郎さん)が 面倒を見てきたと言っている

・しかし二代目歌右衛門(=初代東蔵)は 三代目が二十歳の時にはなくなっている

・史実上、三代目歌右衛門と、二代目東蔵は一つ違い。

と云うことから、どうも時代的には しっくりと来ません
実のところ、史実と掛け合わせますと 時代的にももろもろの破たんが生じてきそうです。


でも、猿之助さんと竹三郎さんの実年齢から考えると、
三代目歌右衛門のいつもそばにいる 初代東蔵=二代目歌右衛門と
考えた方が、御芝居としては、面白いかも知れません(笑)


ここからは 私の想像の部分にもなるのですが、
『男の花道』に登場する「中村東蔵」は、「二代目中村歌右衛門」であった「初代東蔵」と
その実子であった「二代目東蔵」の両方を合わせたような人物として 登場しているのでは
ないでしょうか???


今日の写真はその『男の花道』での竹三郎さんの中村東蔵のお役。
はたして初代か?二代目か? は わかりませんが・・・(笑)


イメージ 1



パンフレットの上演記録を見ますと、数多くの『男の花道』に御出演され 
御自身も主役の歌右衛門役を勤めておられます。

こう云った生き字引のようなお方が居られるのが 歌舞伎の強いところでもあります。

これからもお元気で 次の『男の花道』の時にも ご活躍が期待されますね。