先日 コメント欄に『獨道中五十三驛』や『夏姿女團七』の本水は本当に水ですか?
お湯なのでしょうか? と云った意味のご質問を頂きました。

良い機会ですので 今日はその事と ついでにその仕掛けについて
少し触れさせて頂きます。


本水使用と云っても『獨道中五十三驛』の「箱根の大滝の仕掛け」と
『夏姿女團七』の「雨の仕掛け」は根本的に違います。


『夏姿女團七』では本水と申しましても 二種類の本水がございます。

『夏祭浪花鑑』と同様の本水の使い方がまず一つ。

猿之助さん扮する團七縞のお梶が、おとら殺しを終えた後 
返り血を落とす為に 井戸の水を体にかけますが これもある意味 本水使用です。 

もう一つが、この演目ならではのモノ。
両方ご覧になられた方は、驚かれたのではないでしょうか?

同じく大詰めの場面で、『夏祭浪花鑑』では雨は降らずに、井戸の水だけの演出です。
しかし、明治座での『夏姿女團七』の大詰めは 雨の様子ですから 上からも水が降って参ります。


この上から降ってまいります水は バトン(上から幕や 背景をなどをつるす棒)に
シャワーのような 穴の開いたバトンが別に吊るされ その端にはホースから水が流れる
仕掛けになっております。

もちろん舞台横には 大きめの水道の蛇口が用意されております。
これは、本来の使い方としては 消火用のものと 思ってくださってもよいかも知れません

万一舞台上で火災が 起こった時のための水道です。
それを利用する訳です。 

水道から直接流れ落ちているのが、あの雨の本水だったのです。

『夏祭』や『夏姿』で團七やお梶 が井戸から汲んでかける水は 真冬の場合はある程度
お湯の時もあり得ますが ほとんどが真水です。 

今回も、水道からそのままではございませんが、汲んで少しだけ時間のたった「水」です。


実は今回、この水に手をつけさせてもらう機会がございました。
冷たいだろうなと 予想をつけて 手を浸しましたが 予想をうわまわる冷たさに驚きました。
こんな水を毎回浴びておられたのですね。


同じように、上から降ってまいります、雨の本水を使った演目といたしましては、
今年6月に上演された『名月八幡祭』の大詰めも 新生歌舞伎座初の
雨の中での美代吉殺しとなりました。

縮屋新助と美代吉が若い方なら 本来 本水の雨の中での立ち回りとなりますが
年齢的に高い方は やはり避けられる場合が多いです。

でも今年の6月の歌舞伎座では 吉右衛門さんと芝雀さんのお二人。
芝雀さんはともかく 吉右衛門さんはかなりのお年ですが 
それでも歌舞伎座で 初の本水使用となった『名月八幡祭』でした。


ですがさらに、先月明治座での竹三郎さんの おとら婆での雨での本水使用は 
吉右衛門さんより年齢も上の竹三郎さん おそらく 最高齢ではないでしょうか?
   
季節にもよりますが6月より11月は、やはり寒いです。
さらに過酷な事は否めません


先のブログの竹三郎さんの決意の言葉を もう一度 思い出して頂きたいと思います。

頭の下がる思いです。


これと比較して『獨道中五十三驛』の箱根大滝の場での本水の仕掛けは、また異なっております。

舞台横 あるいは上に 本水を貯めるためのタンクがありまして 
そこへ一旦、水を貯めポンプで上に送り そこから一気に落として 
下のプールへ流し その水をまた循環させて 上へ送ると云う方法をとっております。


「本水かけ流し」方式と 「循環式本水」方式の違いと思ってください。

温泉みたいですね(笑)



タンクの水は使用頻度で何日かに一回(3~5日)は 入れ替えられますが、
この入れ替えた時の水が 本当に冷たい!


2009年3月の新橋演舞場での『獨道中五十三驛』の時 私が赤堀源吾(今回は猿四郎さん)で
段治郎さん扮する丹波与八郎と相対しての 箱根の大滝の場面。

本水使用でしたが 本当に寒かった~!


1回使用した後の水はタンクに貯められますので多少温まり 何とか耐えられるのですが、
先にも申しました通り 入れ替えた時の水は 冬の水道の水だと思ってください(笑)

浴びた瞬間に「あ~!!今日は 冷たいサラ水や~」と 何度も思いました。
どのくらい 温度的に違いますのかは わかりませんが 体感としては ひと浴びでわかるほどの
違いでした。



この時の『獨道中五十三驛』昼夜二回 
あまりの冷たさに 何とかしないと ひと月持たないと 覚悟して 舞台稽古終了後 
急いで池袋スキューバーダイビング専門店に 行きまして
ベスト型のウエットスーツを 購入した思い出がございます。(笑)

体力的と気候的に 体調を崩す原因を 毎日舞台で余儀なくされるのですから、
本来は風邪をひかない方が 不思議なくらいです。


それだけ過酷な舞台を 竹三郎さんは80歳を超えてのご奮闘だったのです。

千穐楽のその日「さすがに3日前、クタクタで もうあと2日あかんかも知れんと思うた!」と 

実は弱音? 本音を明かされました。(笑)

でも無事に勤められて 何よりでした。


正直 11月千穐楽後の二日間 腑抜けになった私のこともございますので、
千穐楽後 今になって お風邪でも召されていないか・・・と思いますが・・・ 

おそらく おとら婆&さぼてん婆&竹婆 のことですので、お元気でお休みを満喫されていることと思います。



『夏姿女團七』 雨模様の水は冷たい本水で 10月の箱根大滝も冷たい真水です(笑)

笑えませんが お湯ではありません あれだけ大量のお湯を沸かす設備もありませんから・・・(笑)

ご質問いただきました方 御疑問は晴れましたでしょうか?(笑)