お芝居と云うもの 25日間公演。 
初日から千穐楽まで もちろん同じ事をしなければなりません
 
なぜなら お芝居は25日間ですが、お芝居の主人公 その時代 その時に
起こった事件は たった一回。

生きたであろう人物は その行動を起こしたのは その日だけのことですから。
・・・おそらく。(笑)




でも役者が25日間 毎日 同じことをしているのも事実です。

如何に初めてのお客様に楽しんで頂けるか?

2度3度 ご覧になられるお客様でも 初めて見てくださるお客様として 
私たちは演じております。


毎日同じことをしておりますが 次にどういうことが起こるのかが 私はわかっていても、
その人物(たとえ毎日同じことを演じてる私であっても)が それをされるのは
この舞台が 初めてのはず。

それを念頭に置きまして、必ず舞台に立っております。



でも アクシデントは必ずございます。

例えば25日の間には 小道具を持ってるのを 忘れて出たりとか
または 出番に間に合わず とちったりとか・・・。

あってはならない事ですが たまにはそのような舞台をご覧になったお客様も 
居られるかもしれません

その時にどう対応するか? それも 役者に与えられた度量ではあります。

舞台をつつがなく 進めさし よくやったと評価を受けた人も居れば 
お芝居が台無しになり こんな事にも対応できないのか! と 仲間内 会社から
叱声を浴びる人も もちろんおります。


そんなアクシデントの時には 周りの役者はそれに配慮をして 
助けてあげるのが通例です。

ちなみに先月、新橋演舞場の初日のお芝居の時 私の台詞のガッチンコを 
ご覧になったお客様は 多くおられたみたいです(涙)

その時の赤堀官太夫役の男女蔵さんには 本当に申し訳なく また助けられました。

お客様にハラハラさせたのは 返す返すも私の失態です、お恥ずかしい限りです。
本当はそんな事のないように 毎日取り組んでいるつもりなのですが・・・。



で 今日の明治座の舞台。 

泣いていいですか・・・



夜の部の『四天王楓江戸粧』をご覧になったお客様、初めてご覧になった客様は 
もちろんお分かりになられなかったと思いますが 2回3回ご覧になられたお客様は 
おそらく あれ? と 思われたか? と 思います。(笑)



2幕の幕切れ 私 石蜘法印は猿之助さん演じます刃物アレルギーの袴垂保輔に刀を突き付け
その病に乗じて 保輔を斬り殺そうと致します。


秀太郎さん扮する母 幾野に病を治す秘法にて 病は無事に平癒し 
逆に私は保輔に「斬られ」 「上手」に苦しみながら 「引っ込む」 と云う訳です。 


あとのお芝居に邪魔になってはいけませんから・・・。

私が斬られてから 幕が閉まるまで10分強はあるでしょうか?



いつもは猿之助さん 私の刀を奪い取って 「病、平癒の験(しるし)」として私を袈裟掛けに斬り
その勢いで 私は悲鳴を上げながら 上手に引っ込む訳ですが・・・。



どう云う訳か 今日は猿之助さん 私の腹を突き 私の肩を抑え付けながら 
その場に押しつぶすような 形をとられました。



なんでなんで???

石蜘法印、ひそかにパニックです。



私は「上手に 引っ込まなくては」 と云う意識で 体を沈ませながら 
這いずるような形で廊下に 出ようを致しましたら 今度は秀太郎さんに 
取り押さえられ 動けなくなりました。


なんでなんで???

石蜘法印、さらなるパニックです。



私、舞台上から はけなあかんねんけど???

しかし、石蜘法印、もうこうなっては ヒットポイント(笑)も ライフゲージも残ってません。
押しつぶされ、取り押さえられ・・・・
自分で自分に 復活の呪文をかけるわけにはまいりません(笑)


そのままそこで死んでいる他 どうしようもない状態に なってしまった訳です。
舞台上 そこで息絶えた格好になりました。



先ほども 書かせて頂きましたが、そこから幕切れまで10分強。


ずっと、舞台で 「死んで」おりました(号泣)


お芝居にアクシデントはつきもので どんな状態でも次のお芝居に 続いていくように
進めて行かねばなりませんが 殺されたものが 動き出す訳にもいかず 結局幕切れまで
そのままの状態で 今日の2幕は終わりました。(笑)


10分間、死んではいたのですが、死に始めは一瞬、せめてなるべく目立たない廊下に入るか?
と思ったのですが、廊下はこの後、後見の出入りがございます。その邪魔になってはいけない・・・

と云うことで、座敷での死体になりました(笑)


その後も 「ここって誰かの邪魔にならなかったっけ?」とか「誰か通ったっけ?」など、
色々なことを考えながらで おちおち死んでもいられませんでした・・・(笑)

長い長い10分でした・・・(涙)




あと3日ですから、お客様にはお分かりならないように 猿之助さんの遊び心が余裕で
舞台にあられたかと思いますと 頼もしく思いますが 
いきなりやられた私は 唖然!!(笑)


そのハプニングに すぐに対応する秀太郎さんにも 茫然!(笑)



この最強コンビに技を仕掛けられますと 私 どうしようもありません・・・。(涙)

特に秀太郎さんは 「なんで簡単に死ぬん?」と仰っていたくらいですから なにかを
虎視眈々と狙っておられたのでしょうか??

私 丸っきりの標的でした(号泣)



笑也さん(橋立)と笑三郎さん(和泉式部) なにが起こったか?と 思いながらも 
哀しいお芝居を続けなくてはなりません 

あるはずがない死体があるのを わかっていながらも 続けなければならなかったお二人もまた
ある意味の被害者でしょうか・・・・

私のアクシデント以上に このお二人のほうが状態的には強烈だったのでは・・・。

ごめんなさい、私はああするしかなかったのです・・・(苦笑)



お芝居を邪魔してしまうのは もちろん問題外ですが、こういったちょっとした ワザとのアクシデントは
ないことではございません。


それをどう芝居の中で対応するか・・・

千穐楽まであと3日ですが 油断のできない とても怖い あと3日になりました(笑)